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映画を見終わると、ちょうど昼時だった。
映画館に隣接する商業ビルの地下にあったイタリアンで昼食をとる。とりとめのない話を色々としたのだが、結局、司が先ほど何を言おうとしたのかはわからないままだった。タイミングから考えて指輪のことだろうと想像がついたので、自分から蒸し返したくもない。なつめは忘れたふりをした。
「あの」
「ん?」
今日も今日とて、パスタランチ二人前をするりと腹に入れてしまった司に驚きながら、なつめは尋ねる。
「今日、どうして誘ってくれたんですか?」
「どうしてって。俺がなつめちゃんとデートしたかったから」
そう感じないから聞いているのだが。
なつめが司を「素敵なホテルマン」だと言ったのは、照れ隠しでもなんでもなく、真実そう感じたからだ。嫌われてはいないように思う。付き合ってくれてありがとう、という言葉に偽りはなさそうだ。
ただ、なつめに向けられている感情がそういう種類のものではないことだけはわかる。
「信じてくれてないね」
「だって、本当のこととは思えないですから」
「本当だよ。デートして、なつめちゃんがどういう女の子なのか、知りたかった。それだけ」
「知りたかった?」
司は追加で玉ねぎのチーズ焼きをオーダーしていた。ブラックホールのような人だ。
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