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司はぽっかりと口を開けてから、唇を尖らせた。
「これからはどうなるかわかんないじゃん」
なつめの言葉を否定はしないらしい。
「これからもそうなりそうにないと思ったんです。違いますか?」
「未来のことなんて誰にもわからないよ。人の気持ちは簡単に変わるんだから。ていうか、俺がなつめちゃんに恋してなくても、悪いことは色々できるかもしれないんだから、気を付けた方がいいんじゃない? 大学って危ないんだよ?」
「和泉さんが悪い人には、見えないです」
「そう言ってくれるのは嬉しいけどさあ」
「だって、重い望遠鏡を運ぶのは、和泉さんだから」
司は急に笑うのをやめて、驚いた顔をした。
「久坂君の方が体も大きいし、後輩なのに……でも、足が悪いの知ってるから、あなたが運んでくれてた。違いますか」
親分とパシリだなんて言っておきながら、重い荷物は持たせない。急がせないし、走らせない。孝史郎の事情を知っていて、なおかつそれを思いやる心がなければできないことだ。
なつめの話をじっくりと聞いた司は、首を振った。
「そういうことは、思ってても言わない方がいいよ」
「どうして?」
「だって、俺が本当に君を好きになっちゃうかもしれないから」
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