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思い切りなつめと目が合い、その後に司を見つけて、表情を失う。見なかったことにはできなかったようだ。そして、何がそんなにおかしいのか、腹を抱えてうずくまっている司では話し相手にもならないので、なつめをじっと見つめてくる。
「二人?」
「うん」
なつめがうなずくと、孝史郎は悲痛な面持ちでうつむいた。何、この世の終わりみたいな顔してんのよ。何年前に別れたと思ってるの。あんたには優奈がいるって、言ったのに。
二人の間に沈黙が訪れたあたりで、司がどうにか復活した。孝史郎の肩をつかんで息をつく。
「いやあ、天才だね久坂君。後々話のネタになるかなーとは思ってたんだけど、まさか当日に鉢合わせるとは。もしかして久坂君も課題の本探してた?」
孝史郎は司の手をとって、自分の肩から引き離した。それはゆっくりとした動きではあったが、明らかな拒絶の意志が見て取れた。当然ながら、司にもそれは伝わっている。
「怒った?」
「司さんがぼくをからかうのは勝手です。でも、彼女を巻き込まないでください」
普段の孝史郎からは考えられないような物言いだ。
「彼女は、遊びで誰かと付き合えるような人じゃないんです。だから」
「これが遊びだって、どうして言えるの?」
孝史郎がわかりやすいほどにひるんだ。それを見逃す司ではない。
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