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「今この瞬間だけを見た君に何がわかるの? 俺が本気だったら、どうするの? ていうか、君にどうにかする権利があると思ってる?」
「それは」
「今日は、俺が誘って彼女がオッケーしてくれたの。俺、なんか間違ったことしてる?」
それを聞いた孝史郎がまた、痛みをこらえるような顔をする。
「君、ちょっと彼女に甘え過ぎなんじゃない? なつめちゃんが指輪を大事にしてくれてるから、他の男にはなびかないって安心してたんでしょう」
「そんなつもりは」
「人の気持ちなんて簡単に変わるよ。今日まで変わらなかったからって、明日も同じだとは限らない。君みたいな情けない奴の事なんか、俺はすぐに忘れさせることができるかもしれない。そうは考えなかった?」
「和泉さん」
仲の良かった二人の言い争いを見ていられず、なつめは口を挟んだ。
「彼は、何も悪くないんです。なんにも。だから、そんな風に言わないで」
「なつめちゃんもなつめちゃんだよ。本気で振るなら、あんなものを持ち歩いちゃだめだし、今、久坂君をかばっちゃだめ。ほんの少しでも優しくしちゃだめ。じゃないと、久坂君だって諦められない。もし、そうじゃないなら、ちゃんと向き合わなきゃ」
それはきっと、映画館で言いかけていたことなのだろうと想像がついた。司の言はどこまでも正しい。きっと彼は、心の強い人なのだろう。だからこそ、弱いなつめの行動に物申さずにはいられないのだ。
なつめは黙って踵を返した。その後ろ姿を見ながら、司は心底呆れた、とばかりにため息をつく。
「ほんと君、何したの?」
すでに、二人の間にあったはりつめた空気はもうない。
「それがわからないから、多分、ぼくはだめなんです」
「だろうね」
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