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ゴールデンウィークだからといって、孝史郎にこれといった予定はなかった。強いて言うなら、長期休暇だからと山のように出た課題を片付けることだろうか。
私立文系、特に文学部は暇で遊べるという噂は真っ赤な嘘だと、入学からわずか一か月で思い知る。少なくとも、孝史郎の大学の文学部に関してはそうだ。毎日のように課題、研究発表、小テストの繰り返し。山のような資料を読み込まなければこなせない課題が大半で、高校までの方が明らかに楽だった。
なお、司からは大学における勉学の話を聞かされていたが、何をするにも要領が良い彼の話は、全くあてにならない。
だから、「その」連絡を受けたときも、孝史郎は自宅の机に向かって必死で課題の論文を書いていたところだった。なかなか集中できずに資料の同じ行を何度も読んでいたら、スマートフォンが鳴った。
その画面に映った名前を見て、正直なところ、とるかどうか迷ってしまった。彼女のことはどうも苦手だった。ここのところ連絡は来なかったのだが、今日は何の用だろう。
迷った挙句、孝史郎は電話に出た。
『久坂君! 良かった、繋がって!』
優奈は駅にいるようだ。向こう側は随分と騒がしい。
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