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「ぼくじゃなくても、怪我のことを心配してくれた? 毛布もかけてくれた? ぼくじゃだめなら、こんなことはしないで。こんなに優しくされたら、諦められない。毎日どんどん好きになって、止められない」
「やめてよ」
心臓が高鳴る度に、頭痛と吐き気が襲ってくる。この男、非常識にもほどがある。やっぱり家に上げるべきではなかった。孝史郎の言う通りだ。追い返すべきだった。それができたのかどうか、思い返してみてもわからないのだが。ここで何かあったら、悪いのは家に上げた自分ということになるのではないだろうか。それだけはごめんだった。
何より、今のなつめに何かしてしまったら、この人は自分を責めて責めて、立ち直れなくなってしまうだろう。
なつめは、残った力を振り絞って右手を振り払い、孝史郎の頬を張った。目が覚めたように、孝史郎の拘束が緩む。
「帰って」
「でも」
「でもじゃなくて。あんたの相手してるだけで熱上がりそう。全然休めない」
「……ごめんなさい」
「そんなに心配してくれなくても、私の面倒見てくれる人はいるから」
「え?」
孝史郎は大きなショックを受けた顔をした。なつめに男がいるとでも思ったのだろうか。
「なんか変なこと考えてる?」
「いや」
「じゃあもういいでしょ。夕方には着くって言ってたから、多分そろそろ」
玄関口で鍵が開く音がして、なつめは顔を上げた。
「来た」
「えっ」
孝史郎はわずかに飛び上がった。インターホンが鳴るどころか、鍵が勝手に開いたことで一層戸惑っているらしい。説明をすべきなのだろうが、なつめはすでに限界だった。慌ててベッドから転げ落ちた孝史郎を見届けて、立ち上がる。
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