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昼食は落ち着いて?
「――もうちょっと落ち着いて食べたらどうだ?」
正面のテーブルに座る同行者に対して、俺は半ば呆れ気味に話しかけた。
口いっぱいに白米を頬張っていた短髪の男は、お茶で口の中身を強引に流し込む。
「『早飯も芸の内』って言うじゃないですか。俺も金居先輩みたいな、デキる男になりたいんです! だから、やれることは何でもやるっス!」
コッテコテな体育会系なノリに辟易しながらも、彼のやる気だけは本物だなと、少なからず感心する。
とはいえ、この美味い唐揚げ定食を味わって食べないのは勿体ない。
社会人になってから、ちょくちょく通っているこの定食屋。俺はここの唐揚げ定食が大好きだ。
よく味の染みた柔らかく、それでいて衣がサクサクとした唐揚げ。
ふっくらと炊き上がった白米。
素朴だけど出汁が効いた味噌汁。
――味わって食べた方が、絶対得だと思うがねぇ。
「でもホント美味しいっすね、ここの定食!」
店内に響き渡る声。コイツ、声デカいんだよ……。
視線が俺たちのテーブルに集まり、少し恥ずかしくなる。
「……早食いでもなんでもいいけど、せめて静かに食え。客は俺たちだけじゃないんだぞ」
「あっ……」
そう言われて気付いたようで、新人は慌てて口を押える。
チラッと店員を見ると、ニコニコと笑っていた。
あれだけ大声で褒められたら、嬉しくもあるよな。
嫌味な感じがないのは、コイツの美点だと思う。そういった意味ではこの仕事に向いている。
そんなことを考えながら食事を進める。
「食い終わったら、午後からの仕事も気合入れていくぞ。今日の商談は大きいからな」
「ウっス!」
返事はこれまた大声で、再び店中の視線を集めることになった。
――コイツにはTPOってモノを教える必要があるかもな……。
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