星間距離二十年

1/1
0人が本棚に入れています
本棚に追加
/1ページ
 宇宙という場所は、案外退屈な場所だ。人類が宇宙に進出して数百年経っても、孤独と退屈というものは、完全になくならない。だからだろう、僕の現在の仕事である資源運搬船の保守人員なんて、全く人気がない仕事だ。 「ペガサスC321、何か問題は?」 【問題なし】  資源運送船ペガサスC321の旧型AIは寡黙だ。僕が、話を広げようとしても、任務に関係はありますか?という質問を返されてしまう。人と話すことが苦手なAIだけれど、航行や資源管理はきちんとしてくれるので、大きな問題は起こらないだろう。  新世代のAIでは完全機械化を達成しているのだけれど、人間という存在はなんやかんや、AIよりも便利だったりするのだ。それに新型AIを導入するよりも、旧型AIと人間一人の方がコストが掛からない。世知辛い事情があるのだ。 「ペガサス、データバンクからおすすめの小説を送ってくれないかな?大衆的なやつで、馬鹿馬鹿しいやつを」 【任務に関係はありますか?】 「ああ、大有りさ。僕の暇をつぶすことが出来る」 【申請を許諾しました】  AIが選んだ本は、僕の好みから完全に外れていた。彼女はこういう系統しか選ばない。もう少しセンスが欲しいのだけれど、航海用AIに本選びのセンスを求めるのは酷だろう。仕方がないので、僕はいつもの趣味を始めることにした。  僕の最近の趣味は、運送船の通信領域を利用した宇宙ラジオだ。古いものなら数世紀前の通信が、新しいものなら数日前の通信が、宇宙には飛び交っている。それらを通信領域を利用して聞くのは、新鮮な体験を僕にもたらしてくれる。  今じゃラジオは、一部の物好きだけしかやらない滅びかけた趣味だ。だから、僕はラジオというものを良くは知らない。でも、文章で読んだ限り、僕のこの趣味は、本来のラジオとかけ離れたものでは無いと思う。 【メイデイ、メイデイ、メイデイ】 「うわ、いきなり外れじゃないか。二十年前の電波なのか……僕にはどうしようもないな」  聞こえてきたのは、救助を求める通信だ。こういうものは聞きたくない。僕は、人間が死ぬ瞬間を好き好んで聞きたいとは思えないのだ。幸先が悪いスタートだ。この分なら面白いものを、今日、聞くことは出来ないのではないだろうか。 【はろー。誰かと繋がったかしら?】  なんだろう?こんな通信が入ったのは初めてだ。これは、リアルタイム通信。生きてる通信か?しかし、これ二十年前の通信じゃないか。どうして、この船にリアルタイムで繋がっているんだ?僕は今、ちょっとした異常事態に襲われている。 「ペガサス、この電波について情報を」 【否定。当艦に権限なし】 「ああ、もう。仕方がない」  ペガサスは融通が利かない。こんな異常を放置するなんてまったく。しかし、彼女からしたらこれは単なる現象なんだろう。科学で説明できる現象だ。人間というものは、全てが科学で説明できるようになっても、まだ不思議を求めている。 「えっと、こんにちは……」 【こんにちは。どこかで会ったことあるかしら?】 「ないと、思いますよ。あ、僕、まだ声だけしか聞いてなくて……」 【モニターが壊れているの?】 「あ、あははは。多分大丈夫です」  この電波の向こうにいるのは、生身の人間だろう。恐ろしい映像が流されるというようなことは無いはずだ。前に、胸糞悪い映像を見せられたことがあった。だから、僕は、音声だけしか拾わないことにしている。それは、それで、想像力が掻き立てられるから。  そんな、自分ルールみたいなものを、僕は破った。流れてくる電波をモニターに映すことにしたのだ。ノイズがモニターに走っている。けれどすぐにそれは収まった。少し画質が悪い。二十年前の電波だから仕方がないだろう。でも、普通に見ることが出来る。 【君の顔がよく見えるよ】 「僕も、あなたの顔がよく見えますよ」 【やっぱり、私、どこかであなたを見たことがあるのよね】 「そう言われると、僕もあなたを見たことがあるような気がしてきましたよ」 【フフっ、面白いことを言うじゃない】  画面に映った僕の通話相手は、三十に届くか届かないかといった、妙齢の女性だった。僕の年齢が二十五であるからもしかしたら同い年かもしれない。もっとも画面の前の相手がいるのは二十年前だ。彼女は現在では四十代後半くらいだろう。  僕の目では、女性の年齢を見分けるのは不可能だ。百年ほど前から流行し始めた義体化も、他人の年齢を知ることを一層困難にしている。見た目は若い女性でも実は百余歳なんていうこともテレビでは割とザラにある。  もっとも、義体化によって若さと寿命を保つ行為は、この世の中じゃ稀である。人間の身体と同等以上の義体は金が掛かるからだ。特権階級の一部が、生にしがみつこうと義体化しているだけである。いつの世も幅を利かすのは金なのだ。 【私の顔に何かついているかしら?】 「ああ、いえ。僕は長距離船で一人なもので、つい人恋しくてですね」 【そう。大変なのね。そんな状況だと家族とも会いたくなっちゃうでしょ?】 「いえ、二十年前に、僕の家族は事故でですね……」 【ごめんなさい。私の質問が悪かったわね】 「お気遣いなく。僕の口下手も悪いんです」  画面の向こうの彼女は優しい人のようだった。彼女にも話したように、僕の家族は僕を残して皆、死んだのだ。僕が五歳のころの話だ。それ以来、僕は親戚に引き取られ、育てられてきた。両親を失った事故に関しては、あまり面白いことじゃないし、話したくはない。  僕が、孤独に慣れていて、資源運搬船に乗っているのも、僕の生い立ちに関係がないとは、言い切れない。無意識に、僕は誰かを求めていて、独りで遠くに行きたかったのかもしれない。そして、結果として資源運搬船の船員となった。駄目だな。この考えはいささか、ロマンティシズムに酔っている。 【何か、考えているの?】 「僕が、どうしてこの仕事をしているか考えたんですよ。今の仕事は僕の生い立ちと大いに関係しているかもしれないと、思いましてね」 【そうかもしれないわね。この話題って私が深入りしていい話じゃないでしょ?代わりに、私の話をしましょうか?】 「気を遣わせてしまって、申し訳ありません。僕のことばっかり話してますね。貴方のことも聞かせてください」 【あんまり、細かいことを初対面の人には話したくないわね。だから、詳細はあなたの方で想像してちょうだい。私は、とある船に乗ってるいるのよ。その船は大きくて、立派な船なの。でもね、どこか窮屈さを感じてしまっているのよ。船の中ではなくて、どこか遠くの人と話してしまいたくなるの】  二十年前の電波の彼女は、船旅にうんざりしているらしい。それで、適当に掛けた電波が、僕のところに繋がったのだ。偶然というものが、有効に作用したのだろう。僕にとってもこの時間は幸せな時間だった。 「分かりますよ。その気持ち。僕も、この船でどこかに行きたくなってしまう時がありますから」 【そうよね。わかってくれてありがとう。もう少し、話したいこともあったのだけれど、子供の面倒を見なくちゃいけないから】 「そうですね。では、僕の船への番号を送りますよ」 【ありがとう。楽しかったわ】  僕が彼女に送った番号が、彼女に届いたのかは分からない。時空の歪みのいたずらで、僕は二十年前の人間と話しているのだ。必ずしも次が有るととは限らない。そうは言っても、僕はもっと彼女と話してみたかった。  彼女と話していると、何故か落ち着くのだ。彼女が言ったように、僕と彼女はどこかで会ったことがあるのかもしれない。四十代くらいの知り合いの女性か。人付き合いが多いとは言えない僕には、当てはまる人物はいなかった。  もっと、昔の記憶だろうか。生憎と僕には、そこまで記憶力がない。思い出す時には、思い出すのだ。今、頭を捻っていても仕方がないだろう。彼女と話せてよかったという想いは本物なのだ。それにケチをつけるような思考は良くない。  彼女と話した余韻は、まだ残っている。僕は、この余韻をぶち壊しかねない、電波を拾いたくは無かった。とはいえ暇は余っている。なので、僕は機材を片付けると、風呂に向かった。風呂といっても酷いものだ。このオンボロ宇宙船に備え付けられたバスルームは、人間工学を完全に無視している。  数百年前からの枯れた技術で作られた、密閉されたバスルームだ。何かを丸洗いするために作られたシャワー室と言ってもいい。散々、悪口を言っているが、この風呂は僕にとって長旅の癒しだった。この家畜洗い場じみた場所に、僕は感謝の祈りをささげてもいい。  このシャワー室は、あれである。不味い食べ物みたいなものだ。最低な場所だが、無かったら僕の精神が死んでしまう。丸洗いにされる動物は、落胆なんて浮かべない。洗われると爽快な気分になれる。  僕は、爽快な気分になった。つま先から、頭のてっぺんまで新品になったようだ。酷い目に遭ったが、風呂の後の爽快な気分は、嫌いではない。 「ポンコツAIさん。君の本選びのセンスはどうにかならないのかな?」 【任務に関係はありますか?】 「ああ、またそれか。もう少し君も柔軟さを身に着けてほしいものだね」 【当艦は、規律に乗っ取った行動をしています。規律の範疇で柔軟性を維持しています】 「それは素晴らしい。ありがとうね」 【どういたしまして】  皮肉というものをAIが解すのかは分からない。しかし、先ほどの彼女の口ぶりには、僕に対しての当てつけのようなものが有った気がする。僕の勘違いかもしれないけど。宇宙船では時間間隔が狂う。それを防ぐためか、夜間に相当する時間になると、この気の利かないAIは電気を全て落としてしまう。  乱暴な解決策しか持っていないのだろう。これが、彼女の性格なのかもしれない。しかし、艦内が強制消灯されるまでにはまだ時間が有る。そういえば、僕は今日の食事をとっていない。まるっきり忘れていた。 「やっぱ随分と、安っぽいなぁ」  食糧庫から僕が取り出した、今日の分の食事はみすぼらしかった。栄養補給だけを目標としたブロック状の栄養食よりはましなのだ。しかし、酷いものだ。人類は十分な食事がないと生きていけないのだから、もう少し上は僕のことをおもんばかるべきだろう。  多分、僕が上司に改善を訴えても、なあなあで済ませられるだろう。この会社は、コストを優先して旧型AIと人間という組み合わせを、長距離の資源運搬船の乗員に選んだのだ。人間の待遇を改善しすぎたら、新型AIの方が安くなってしまうのかもしれない。  僕は、不味くもないが、美味くもない食事を取りながら、そんなことを考えた。労働者というのはいつの時代でもそんなものなのだろう。この前途中まで読んで、難しくて諦めてしまった社会学の本。そこに書かれていたような、労働者を重視したユートピア。  結局、人間が人間である限り、いつの時代になっても平等なんて実現しないのだ。一人だと、やっぱり長考する癖がついてしまう。悪いことか良いことかは分からない。話し相手がいないから独り言も多くなるし。 「僕と、ぶっきらぼうなAIだけしかこの大きな船に乗っていないんだよ。考えるとすごいことじゃないか」  当たり前の事実だけれど、過去に比べて今は格段に進化しているのだ。さっき思い浮かべて社会学の本の著者を、この時代に連れてきたら何を考えるのだろうか。難しいことだろうか。それとも、単純に技術の進歩に驚くのだろうか。案外、人間の進歩のなさに絶望したりして。 「あほらしい。寝るか」  僕は、寝室の明かりを落とし、眠りに就くことにした。久々に人と話したせいで、疲れたらしい。上等とは言えない寝具だけれど、僕はすんなり眠ることが出来た。  朝を迎えた。といっても、電気が付いただけだ。委員長気質なAIは僕がぐっすり眠るのを許さないようだ。様々な嫌がらせで、僕を起こしてくる。その労力の一割でも、日常会話に割いてくれればいいものを。融通を利かせてほしいものだ。  融通の利かないAIに船の状況を聞いた。全く問題はないそうだ。問題が発生したら僕が困る。万が一の時の要員という仕事だから、何も起きないことにはやることが無いのだ。適当な電子書籍をダウンロードした。  僕が選ぶ本の傾向は、どこか似ているものだ。古典作品が多いと思う。そういう作品を選んでも、どこかで見たことがある展開で、予想がついてしまうのだ。目が肥えてきた。あるいは単純に飽きてきたともいえるだろう。  それなりに面白いけれど、展開の予測できる本を読む。それでも、結構時間は潰れた。気が付けば、昨日、ラジオを繋いだ時間に差し掛かろうとしていた。機材を取り出して、チューニングを始める。今日は、静かだ。  昨日のように、救助を求める信号は伝わらなかったし、凪のように静寂が広がるばかりだった。静かだ。僕は海を見たことがないけれど、深海というものはこんな感じなのだろうか。一切の音が伝わらない暗黒の世界。宇宙は深海に似ている。  ジジ、ジジ、ジジ、ノイズがラジオから漏れてくる。何かを受信したらしい。これは、昨日の彼女だろうか。勝手に期待して落胆するのは嫌だ。だから僕は、その可能性を否定した。昨日のはただの偶然で、今聞こえるノイズは、ただの雑音なのだ。 【あっ、繋がったみたいね】 「今日も、掛けてくれたんですね……」 【そう。あなたをどこか他人に思えなくてね。本当は子供の世話とかいろいろあるんだけど。少しの休息は、誰にとっても必要でしょ?】 「そうですね。あっ、僕なんかと話していて旦那さんは怒ったりしないんですか?」 【私が、そんなつまらない人と結婚するような人間に見えるかしら?】 「見えませんね。でも、結婚してから本性を見せる人だっているかもしれないですし」 【それはそうね。でも、私と旦那の仲は大丈夫よ。ラブラブなんだから】 「それは、良かったですね」  無事に彼女との電波は繋がった。予防線を張ったのが無駄になってよかった。彼女は既婚者で目を離せない小さな子供もいるらしい。それなのに、僕に時間を割いてくれるのが、不思議だった。僕と話すことが、彼女のストレス発散になるのだろうか。  彼女が僕と話すことを嫌がっていないのが、その証拠にはなるかもしれない。僕は、自分が話し上手だとは思っていない。相手に退屈な思いをさせてしまうのを恐れているところもある。 「あの、僕と話していて楽しいですか?自分では、あまりうまく喋れていないと思っていて」 【フフフ。そんなこと気にしてたの?私が嫌がっていないのが何よりの証拠じゃない】 「そう言われると、そうですね」 【やっぱり、私はあなたのことを他人とは思えないのよね。あなたは私のことをわかるかしら?】 「僕も、そんな気がするんですが。生憎あなたのことはさっぱりなんですよ」 【記憶力が良くないみたいね】 「ええ。そうですね】 「時間の方は大丈夫なんですか?」 【そろそろ終わりにしましょう。また、明日ね】  彼女はそう言って、通信を終わらせた。後に残ったのは充足感だ。また、明日も彼女と話せるなんて、僕にとって嬉しいことだ。特筆するようなことはない。昨日と同じようにいつも通りの宇宙船での日常を過ごす。  彼女は、僕のこの退屈な日常に表れた清涼剤のような存在だった。明日も彼女と話せるかもしれないという希望は、僕に退屈な日常を語らせないには十分すぎた。 「今日は、一段と電波の乱れが酷いな」  電波を拾うのにこの雑音は酷い。ザリザリとまるで、何かを擦っているような音が聞こえた。今日は、彼女の声を聞くのは無理かもしれない。彼女と話すことを僕は熱望しているみたいだ。これは異常だ。おかしい。どうして、そんなことを僕は考えているのだろう。  恋。そんな言葉が脳裏をよぎった。けれど、この感情はそんな簡単なものでは無いはずだ。そんな簡単に片づけられない思いを僕は彼女に持っている。 【ごめんごめん。電波状況が悪くてさ】 「いえ。こちらの電波状況も悪かったので。気にしてませんよ」 【そういう割には、随分とほっとしてるじゃないか。もしかして、私に見放されたとでも思っていたのかな?】 「ハハハ。はい。実はちょっと思ってました……」 【正直でよろしい】 「どうして、僕はあなたをそんな風に思ってしまうんでしょうか?」 【てっきり、分かっていると思ったんだけどな。なんだ。気づいていなかったのね。それはね】  ノイズが酷くなって彼女の声は聞こえなくなった。その代わりに甲高いサイレン音が、耳を打った。 【ごめんね。船で事故が起きちゃったみたい。生きていたら。また会いましょう】 ――――私の×××××  爆発音に紛れて、彼女が言った言葉を僕が聞き取ることは出来なかった。でもきっとそれは重要なことだったのだろう。何故だか。そう思えた。    数日が過ぎた。あの時以来、彼女の安否が気になってずっと宇宙ラジオは船内で流されていた。AIに調べさせれば二十年前の事故の結果なんてわかるだろう。きっと助かっているはずだ。でも、万が一ということがある。  そう万が一だ。万が一、彼女が生き残っていないという事実を付きつけられたら、僕はおかしくなってしまうだろう。二十年前の船の事故というのは、僕にとって地雷なのだ。両親を失ったあの事故のことを考えてしまう。僕の心の傷は完全には癒えていないのだ。  そんな精神状態の中。僕は数日無視していた業務に戻った。この船に異常が発生したなら、AIが僕に知らせているはずだった。 「ペガサスC321、異常は?」 【本船には異常なし。あなたの体調が異常です】 「君が僕を心配するなんて、何か変なものでも回路に混じったのかい?」 【本船は異常電波を受信しました。あなたには、それを確認する義務があります】 「珍しいこともあるんだな」  AIがファイルを提示した。音声ファイルだった。件名も書かれていない不審なファイルだ。一瞬躊躇したが、最悪でも大音量の喘ぎ声を聞かせられるくらいだろう。僕は、そのファイルを開いた。ザリザリという雑音が聞こえる。  その雑音の中に微かに人の声が聞こえた。 【ごめんなさい。あなたに会うことはもう叶いそうにありません。愚かな私を許してください。初めて顔を見たときから、私はあなたが未来の息子だということが分かったわ。五才の息子にどことなく面影が有るんですもの。とぼけてみたけど。あなたは気が付かなかった。でもそんなものかもしれないわね。あなたが、そんなに大きくなった姿を、本当なら私は見れなかった。でも、神様のいたずらか。私は、あなたの成長した姿を見ることが出来た。本当に嬉しかったわ。この事故で、私と夫は死ぬのね。でも、あなたは無事に脱出艇に乗せることが出来たわ】  雑音が再び大きくなった。 【もう、この場所の空気も無くなってしまう。だから……ジジジジ……最期にザザザザザ……あなたを…………愛してる】  ノイズ交じりに聞こえた声。それは、記憶の奥底に残っていた母のものと同じだった。 「なんでだよ。なんで、僕はもっと話をしなかった。なんで、なんで。なんでだよ!ああ。どうして、もっと話を聞かなかったんだよ。」  慟哭が船内に虚しく響いた。星間距離二十年。それが、あの日の僕と母の間に存在した距離だった。
/1ページ

最初のコメントを投稿しよう!