二人の朝

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二人の朝

カーテンが開けられる音が聞こえた気がした。早朝はそろそろ肌寒さを感じさせ、蒲団に包まる至福から抜け出せずにいた。だけど一人暮らしの部屋でゴソゴソと自分以外の足音が聞こえるのを不審に思って少し寝足りない体を無理に起こして部屋の様子を見回してみた。すると長い黒髪の12歳位の少女と目が合った。そうだった、昨日この子を拾ってきたんだった。我ながら何てことをしてしまったのだろう・・・。 「おはよう」 とりあえず、眠気眼を擦りつつ僕をじっと見つめる少女に声をかけてみた。 「おはよう。眠そうだね」 少女の方はばっちり覚めているらしく、既に髪も整っていた。僕は洗面所で顔を洗って歯を磨き、寝癖を直してから、二人分の紅茶を煎れた。猫舌らしく綾は少しずつ紅茶を飲んでいた。 さて、どうしたものか。 「あのさ、昨日何で公園にいたのか聞いてもいい?家に帰りたくない事情とかさ」 僕としても綾の心を刺激するような真似をしたくはなかったものの、やはり一応聞いておかない訳にはいかなかった。 「お母さんと新しいお父さんが二人で旅行に行っちゃって家に食べ物も無くなっちゃったから、家にはお金も置いてないし、お腹空いたからとりあえずいつも遊んでいるあの公園にいたの」 「旅行に行っちゃった?君一人残して?」 「うん」 綾は昨日の残りのピーナッツを摘みながら言葉少なにそう言った。どういうことだろう?これはもしかして、ネグレクトとかいうやつか? 「新しいお父さんって事は、お母さん再婚したの?」 「そうだよ」 「本当のお父さんはどこにいるだろう?」 「死んじゃった。2年前に」 「そうなんだ・・・」 予想以上に重い話だった。てっきり親と喧嘩か何かして家出してきたのだろうくらいにしか思ってなかったけど、これは立派な虐待なのではないだろうか。これではすぐに家に帰す訳にもいかない。さて、どうしたものか。 「とりあえず、朝ごはんでも食べようか」 朝からあまり重い話はしたくなかったので、いつも通り朝食を作ることにした。今日は二人分だから作り甲斐がある。冷蔵庫に合った鮭を焼き、卵で目玉焼きを造り、ほうれん草のお浸しと金平ごぼうをさっと作った。 「いただきます」 綾は結構お腹が空いていたらしく、夢中でパクパクと食べていた。無口で大人しい綾が自分の作った料理を美味しそうに食べてくれいる事に嬉しくなった。 食後のお茶を啜りながら、ふと気がついたが綾は昨日の服のままだ。僕もだけれど。とりあえず着替える必要があるだろう。 「綾は家に帰っても食べ物がないんだよね?」 「うん」 「じゃ、両親が帰ってくるまでここにいなよ。とりあえず、家に着替え取っきな」 「いいの?」 上目遣いに僕の様子を伺う綾。多少不味い気がしないでもないが、まあなんとかなるだろう。乗りかかった船だ。 「いいよ。後持ってきたいものがあったら、バッグ1つ分くらいなら構わないから」 「分かった」 綾が家に帰って僕は部屋で一人になる。ごろりと寝転がりながら綾の身の上を考えた。何だか父親にでもなった気分だった。 「娘を残して二人で旅行か・・・・」 本当にそんな話あるんだな。それもこんな近くに。僕はそんな目に合ったことないから綾の気持ちなんて分からない。だけど・・・。 「辛いよな。本当の父親じゃないお父さんと急に住むことになったことも」 この世には不幸な事なんて、たくさんあるんだよな。自分の平凡な暮らしがとても平和な物に思えてきた。
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