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「伊庭くん。あなたが好きです」
――と、伊庭一郎は今日も女の子から好きですと告白された。
何かが憑いているんじゃないかと思えるほど、伊庭は女の子から、ご覧の通り、とにかく好かれる。モテるのである。
ところが、だ。
それこそ幽霊から宇宙人までいろんなタイプの女の子から告白されてきた伊庭であったが、
「ど、どこ?」
姿が見えない。
「ここです……」
「あれ?」
「すみません。私、透明人間なんです」
「透明人間の……女の子ですかあ」
「はい」
透明人間との出会いは初めてであった。
どんな女の子からの告白も、やんわりと断ってきた伊庭だったけれど、透明人間の女の子なんて面白いじゃないかと思い、返事は「OK」した。
さて、伊庭は、いざ透明人間の女の子と付き合ってみたら、相手の姿が見えないって存外気楽なものだと知った。相手の顔が見えないから会話するってことに抵抗感がわかなかった。だから、ちょっと恥ずかしい本音でもペラペラと口から出た。
透明人間の女の子も伊庭とのお喋りを楽しんだ。こっちもよく喋った。
やがて、二人は見える手と見えない手をつないで歩くことが自然とできた。
不思議と本気で付き合う女の子ができたら、伊庭のモテ期はそこで終わったようだ。女の子たちからの告白の毎日はなくなっていた。
こうなると、さあ、伊庭は女の子との付き合いを一つ深めたくなった。
キスしたい。んー。スカッ(ハズレ)。
「違った」
「え? なんです?」
(そこかっ!)
伊庭は声のした方に顔を近づけた。身長差はわかっている。
今度こそ、唇と唇を――ゴッツーン。おでことおでこがぶつかった。
「いったーい」
「ご、ごめん」
作戦を練り直そう。
伊庭は考えた。どうしたら自然とキスできるかを。
ポクポクポクポク♪
トンチ小僧さんかよ。
チーン♪
あ。閃いた。
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