レイリー

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 レイリーが動かなくなった。  朝起きていつものように「おはよう、レイリー」とあいさつをしたら返事がなかった。  見るとレイリーの黒い目から光が消えていた。  おーい、と何度も呼びかけたが返事もなく動かない。  まさかそんなと思いお父さんとお母さんに話、急いでお父さんと一緒にロボット病院に連れて行った。母は妊娠しているのでお留守番。  病院は定期メンテナンスをしたり、どこか変になっていないか見る場所だ。  もちろんレイリーは定期メンテナンスにちゃんと連れて行ったりしていた。  だが変な所もなく、問題はなかった。  なのになぜ……。どうしてと疑問ばかりが私の頭の中を駆け巡る。  専門員も原因が分からないと打つ手がないと申し訳なさそうに言う。  私は諦めたくなかった。せっかく親交が深まり家族とも馴染んできたのに。食卓も四人で囲むようになって、これから先レイリーと過ごす未来を思い描いていたのに。  一度解体して全ての部品を新しくすれば動くようになる可能性は十分にあるが、その場合データ……つまり記憶も新しくなるため今までの思い出はレイリーからしたら別の誰か記憶のように感じると言われた。  レイリーがレイリーじゃなくなるようで嫌に思い、それなら例え動かなくてもいつか動き出すと信じて今の状態のまま一緒にいたいと私は両親に訴える。 「それって何だか死体と一緒にいるみたいで嫌じゃないか……?原因が分からないなら病院に預けた方が」いいんじゃないか?」  その言葉に私は冷静になり、確かに病院なら設備が整っているため何かあった時に素早く対応出来ると考えた。  私は解体ではなく引き続き精密検査と原因究明のためとお父さんに言い、レイリーを病院に預けることにした。 「それではレイリーさんをお預かりいたします」  ネット帽にマスクをした白衣のお姉さんが、丁寧にお辞儀をしレイリーを抱きかかえる。 きっと原因が分かって治してもらえるだろう、大丈夫。私はそう自分に言い聞かせてお父さんと帰り道を歩く。    それから半年が経った。  妹が出来た。名前はひなえ。  自分がお姉さんになったと言う実感はないが、ベビーベッドですやすやと寝ているひなえを見ていると何だか不思議な気持ちになった。  苦手な割り算、ひなえに聞かれたときにしっかり答えられるよう、自室に行き勉強を始める。  しばらくすると下の階から電話の音が聞こえてきた。お母さんが出たようだ。音が止んだ。  手元の問題に目を移しペンを動かす。  階段を上がってくる音が聞こえ、なんだろうと思いペンを置きドアを開けると、目の前にお母さんの顔が迫る。 「レイリーが動いたって!」  レイリー……、その名前、存在を忘れたことはない。    その知らせを聞き私は喜びでいっぱいになり、いつもよりワントーン高い声で「本当!?原因は何だったの!?」と大きな声で言う。  すると下まで聞こえたのかひなえの泣く声が響く。                    お母さんと一緒に一階のひなえの元に行きお母さんがひなえをあやした。私は小さな声でひなえにびっくりさせてごめんねと謝り、レイリーのところに行ってくると言い、スニーカーを履き自転車にまたがる。  急いでいたからか、角を曲がるときに歩道と車道の段差の高さを忘れ進み、景色がぐらつき地面に頬を強くぶつけてしまった。  一瞬何が起きたのかぽかんとしたが、転倒したときに擦りむいたのか膝が赤くなっており、じわじわとと血が流れ出し痛みを感じる。  急いでレイリーのところに行きたいのに痛みが悲しさ連れてくる。  うつむいていると、見覚えのある割り算の記号のような柄の布で覆われた鉄の手が見えた。 「かなみ、大丈夫?」  目を下から上へと動かすと、そこにはレイリーの顔があった。 「レイリー……?本当にレイリー……?何でここに?」 「記憶がパンクして、動けなくなって、整理整頓して、そしたらかなみがいなくて、だから会いたい、かなみのいる家に帰りたいって思って」  嬉しかった。ただただ嬉しかった。倒れた自転車を起こし来た道をレイリーと一緒に戻る。 「レイリー……ありがとう」
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