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王郵は馬車を再度走らせ、東郡に向かった。
「まったく。小黄門の私をたらい回しにするとは」
そう口では文句を言いながら、しかし馬車の中にいる王郵の表情はだらしなく緩んでいた。
王郵。
齢三十五になるこの男は、皇甫嵩の叔父である皇甫規に憧れていた。
まだ年若い頃。
宦官となり、下働きに励んでいた王郵の耳に皇甫規の武名が幾度となく聞こえてきたのだ。
洛陽きっての問題児。
口だけの男。
チクリ魔。
様々な浮名で呼ばれていた男が、たった一度軍を率いただけで、周りの人間が静かになった。
若い王郵にとって、それは痛快な珍事として記憶に残り続けている。
何の因果か、その甥に関わることとなったのだ。
心が浮足立つのも無理からぬことだった。
しかし、馬車の外で付き従っている兵たちは、王郵の声しか聞こえない。
言葉通り王郵が苛立っていると思い、身を強張らせていた。
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