一幕 ①叙勲

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 「どどど、どうしました、義真様!?」  「敵襲ですか!?」  「義真殿、何事か!?」  悲鳴を聞きつけた紀孔や(ちょう)(ばく)(がい)(くん)たちが武器に手を添えながら幕舎内に入ってくる。  皇甫嵩の正面には王郵が立っている。  紀孔は素早く皇甫嵩の身体を見渡す。外傷は、なさそうだ。毒か。  王郵は振り返ると、足音を鳴らしてこちらに近寄ってきた。  蓋勲が殺気を放ち、しかし、剣を抜いていいのかわからず困惑気味に皇甫嵩を見つめる。  「皇甫殿は驚かれているだけだよ。介抱してあげてくれたまえ」  そう言うと、王郵は割り当てられた幕舎に戻っていった。ここに一泊して明日にはまた洛陽に発つ予定だ。  「義真様!? 義真様どうしたんですか!?」  「………………された」  真っ白になった皇甫嵩から言葉が漏れる。  それに皇甫嵩麾下の指揮官たちは固唾を呑んで発される言葉を待った。  「叙勲、された」  「叙勲?」  紀孔が訪ね、指揮官たちも表情に訝し気なものを載せる。  ここにいる全員が爵位をもっている。今更叙勲されるくらいでここまで驚くのだろうか。  「そんなに高い爵位もらったんですか? 左中郎将ですし、十位の()(しょ)(ちょう)とかです?」  そう聞いてくる紀孔に皇甫嵩はゆっくり首を振る。  紀孔からすると少し高めの爵位を言ったつもりだったがどうやら違ったらしい。では同じ左とつく十二位の()(こう)とかだろうか。  そんな風に考えた紀孔は、皇甫嵩の答えに固まった。  「も、もう一度、言ってくれますか?」  張邈が喘ぐように言う。  それを受けて、皇甫嵩はもう一度、言った。  「(かい)()、………()(きょう)(こう)」  『――――――――――――』  一同、固まった。  槐里とは()(しゅう)(ゆう)()(ふう)(ぐん)(ぐん)()である。  そして、都郷侯とは、列侯のひとつに分類される爵位だった。
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