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「ごめん、そんなつもりはないんだ」
「あっ、み、光井ちがうんだ! こっちこそごめん、変なこと言って!」
「ごめんね? これからも友達でいてくれる?」
クエスチョンマークを強調ぎみにした抑揚をつけて、相手の顔をのぞき込んだ。目の前では、俺のことを好きだと告げたサークルの同期の男が、顔を真っ赤にして汗をかいている。
こんなに至近距離でまじまじとコイツの顔を見たことはなかったけれど、こうしてみると小綺麗でなかなかのいい男だ。
「為田はさ、女の子にもモテるんだから、俺なんかよりもっといい人がいるよ? 男なんてもったいないよ」
「そ、そうかな?」
「そうそう、また合コン誘うから行こ?」
「お、おう……」
好きな相手にそんなこと言われるのは正直微妙だろうけど、こいつらノンケにはこれでいい。うっかり同性に告って粉砕されたプライドを、なんとか保てるレベルでフォローしてやるのが、俺流のアフターケアだ。軽蔑することなく友達でいようと提案されるのは、相手にとって悪い話じゃないと思うんだ。
大学での俺の異名は「小悪魔男子」。性別関係なく自分に堕ちていくヤツを、転がして愉しむのが快感だった。取っ替え引っ替えしていた、というわけではない。手に入るかどうかのギリギリまで相手をその気にさせておいて、深い関係になる前にサッとかわす。実被害があるわけじゃないので、相手も弄ばれたとまでは思わない。
学内で人間関係を拗らせるのは、賢いヤツのすることじゃない。深い関係への欲求は、然るべき場所で補えばいい。同じスタンスのヤツが集まる場所では、基本恨みっこなし。それが気楽だった。遊び場はあくまで遊び場。割り切ることには慣れている。それなりに楽しい学生生活だった。
「見たよ、ぜんちゃん」
「マジで? 不覚かよ……」
『アドバタイジング研究会』の看板を掲げたサークルボックスを出たところで、不敵に笑う真由子につかまった。こいつも同期なんだが一風変わった女で、俺ウォッチャーだと公言している。そのくせ全く恋愛感情はないらしい。小柄な俺と絶妙に釣り合う小柄な女で、きつめの顔立ちに明るくカラーリングしたショートヘアがよく似合う。釣り合うだけに誤解されることも多いが、俺たちの間に何かあるとしたら、それは最高でも友情だ。ウォッチャーと自称するだけあって、真由子には性癖を知られているだけでなく、行動もかなり見透かされている。
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