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「あーあ、可哀想にねぇ」
「為田なら選び放題だろ?」
「じゃなくて。為田くんに相手にされてない数多の女子が、よ? ホモ男に負けてるとか知ったら泣くわ。あんた、狙ってやってるでしょ? ホント性格悪いんだから」
「趣味ですからねー」
真由子の前では良い子ぶる必要もない。開き直ってポケットのタバコを取り出した。
「どこまでもギャップがすごいのよねぇ。見るからに嫌煙家って感じなのに」
「ほっといてよ」
「ま、それが面白いんだけど」
「どーも」
あくまで俺は、面白がれる対象ってわけだ。
こいつが喫煙所までは着いてこないと知っているので、言い捨てて地面を蹴った。
タバコは俺にとって、コミュニケーションアイテムだ。分煙化の進むこのご時世、愛煙家同士、肩身の狭い思いに、言葉を交わさないうちから不思議な連帯感が生まれる。
「うぃーす」
「お、光井じゃん。もう上がり?」
「や、まだもう1コマ」
「そ」
「お疲れ〜」
短いけれどこれで十分。満足した俺は、名前だけ知ってる違う学部のそいつに手を振った。
学部の仲間ともそれなりに交流はあるし、前述のとおり、アド研でのサークル活動もしてる。友達が少ないイメージは持たれていないと思うけれど、謎めいているとは思われている自覚があった。
真由子といるのは気遣いの必要がなくて気楽だが、ときめきもゼロパーセントだ。久しぶりに夜遊びに出かけようかなぁと考えながら、ひとりになった居心地良い空間に、紫煙を吐き出した。
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