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「ぜんちゃん向けの、居るわよ?」
「……マジで? ラッキ、来てよかった〜」
ライムの挿さったジーマの瓶をトンと置きながら、これぞオネェな感じのマスターが囁いた。今よりずっと自由だった学生の頃の夜遊びに思いを馳せていた俺は、急に現実に引き戻されたせいで、かろうじて嬉しそうな声を出した。
大学時代からすっかり常連になってしまっているゲイバー『blue』のマスター、みどりちゃんは、「青なのにみどり!」をネタにしている、底抜けに明るいバリタチのオネェだ。どちらかと言えばガッシリした骨格に、金色ヒゲ装備といういかにもなキャラクターで、ポップな鳥みたいなファッションを纏い、たまにメディアの取材を受けたりもしている。ちなみに頭は真っ赤な短髪。もはや色の暴力だ。
メディア側の人間としては、ここに出入りしていることはあまり知られたくはないのだけれど、口が堅く機転の利くみどりちゃんならピンチも何とかしてくれるだろうと思って、就職後も通い続けている。
「俺向けって、あれ?」
「好きでしょ?ああいう真面目な体育会系っぽいの」
「俺がいつあれ系選んだよ?」
カウンターの反対側の端っこにいる、件の相手に聞こえないよう、ひそひそ声で抗議の声を漏らせば、みどりちゃんはそっとため息をついた。
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