第2章 人呼んで小悪魔男子

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一人暮らしのヨリの部屋は、ヨリの匂いや気配に満ち溢れていて落ち着かない。距離は遠いのに抱きしめられている感じがして、落差に目眩がする。 「いずれ結婚するにしてもさ、遠距離は嫌だからってこっちの短大受けたんだって」 「へぇ……結婚ね。さすがヨリ。長期ビジョンがすげーな」 「言ってる俺も正直実感わかねえよ。まだハタチにもなってないわけだし。でも、あいつとはなんかこの先もずっと一緒にいる気がするんだ」 「ハイハイお惚気ですね〜」 「ゼンもそういう子、大学のうちに見つけとけよ? 就職したら忙しくなって、縁遠くなるっていうしさ」 「ハイハイがんばります〜」 「わかってんのかよー? あーあ、一度でいいからお前の本気、見てみたいわ」 この天然め。何度思ったことか。 俺の本気なんて見せたら、お前が困るだけだろ? なんなら一回見せてやろうか? ずっとお前が好きだったって叫んで、胸倉つかんでキスをして、勢いで押し倒して乗っかってやろうか? 見た目だけじゃ力負けするのはわかってるけど、俺の本気でヨリにぶつかったら、押し倒すくらいはできそうな気がする。そのくらいの本気なんだよ、バカ。 「何考えてんだか。たまにゼンって何考えてるかわかんないときがあるよな」 「ミステリアスも俺の売りだからね」 「ミステリアスって」 笑い崩れるヨリの横顔に安堵する。普段滅多に笑わないヨリがこんなに相好崩すのは、俺の前でだけ。いや、彼女の前でもそうなのかもしれないけれど、そんなの俺の知る由もない。 「神秘的!」 ピシャリ、と語尾を切る。この話題は、これでおしまいだ。 俺の本気なんか、お前は一生知らなくていい。
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