217人が本棚に入れています
本棚に追加
*****
結局あの日、みどりちゃんのオススメには、食指が動かなかった。軽い出会いを求めて『blue』に行ったのに、余計なことを思い出す羽目になってしまった。一度だけネタでヨリを連れて行ったのが間違いだった。友達だって紹介したはずなのに、みどりちゃんにはわかってしまったらしい。どうせ望みもないのなら、もうヨリにゲイバレしてもいいかなっていう自棄気味な気持ちが、透けて見えていたんだろうか。鈍いアイツが、勘づくはずもなかったけれど。
ヨリとは就職してから疎遠になってしまっている。俺の仕事が忙しいことを、あいつもわかって遠慮しているのだろう。寂しくもあったけれど、ホッとする気持ちの方が大きかった。やっとひとりになれた。解放された。これからは自分の生き方でやっていく。この次にヨリから連絡が来るとしたら、それはきっと結婚式の招待だろう。
結婚式……か。
幼馴染の式なんだから、招ばれて当然だし、なんなら友人代表で挨拶だって頼まれるかもしれない。来るべきその日をどんな顔で迎えればいいのか。うまく笑えるかな。今の俺にはまだ無理なのかもしれない。薄くため息をつきながら、見つめていたグラスの中の氷をカランと回した。
「元気ないじゃん、小悪魔男子」
「るせーな。俺だってアンニュイな気分のときもあんだよ」
真由子とは卒業後もこうやってたまに会う。仕事のグチだとか近況報告がてら、一杯呑む仲だった。
相変わらず短くした茶髪に、大ぶりなゴールドのピアス。ダークカラーを好んで着るものだから、小柄なのに可愛らしい印象を持たれない。
最初のコメントを投稿しよう!