第3章 やっぱり愛されたい動物

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「光井、ちょっと」 先輩AD葉子(ようこ)さんのピリッとした声に、自分が何かしでかしたことを悟った。 就職してから5ヶ月、何度か小さなミスはしたけれど、今回は何だろう。心当たりがないところが怖い。 「取材は本業じゃないから慣れてないのは仕方ないけどさ、一般人巻き込んだロケのときは、特に気をつけなきゃ」 「はい……すみません」 「次も考えてた相手先だからさ、怒らせたくなかったんだよね」 ロケ先でやってしまっていた。 深夜番組でスタジオ仕事の多いチームだから、たまのロケに出るときは皆、特に気をつかうように心がけている、というのに。 「やったつもりって、よくあることだけどさ、相当確認しなきゃね」 取材後、編集した映像を相手先に確認して了承もらってから放送する予定だった。 そういう約束でなんとかオーケーしてもらえたロケだったのに、気づけば明日が放送日だ。 相手先から催促があって発覚した、俺の重大なミス。 「あの、すぐに飛んで謝って……」 「うーん、こういうのはさ、あんたクラスのが行っても意味ないんだよね」 チラリチラリと神田Dを見やる葉子さんと、狼狽えることしかできない俺。 「……おし、終わった」 神田さんが、ガタンと立ち上がった。パソコンの電源の、ヒュンと落ちた音がする。
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