第3章 やっぱり愛されたい動物

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「で、次そっちね?」 「……です。スケジュール大丈夫そうですか?」 「葉子ちゃんが居ればなんとかなるっしょ。差し替えは多分要らないと思うけど、一応準備よろしくね。チケは?」 「取りました」 「よしよし。デキる部下を持ってボクは幸せだな〜」 「あ、あの……」 デキない部下なことが露呈してしまった俺は、どのタイミングで口を挟めばいいのかわからずにいた。 「あ、光井に嫌味言ったわけじゃないからね。こういうの、最初はあるある。でも次はやんないようにね〜」 そう言いながらロッカーからジャケットを取り出してサッと羽織る神田さん。いつものダラッとした様子からは想像もつかない、流れるような仕草だ。そういえば、いつの間にか無精ヒゲもない。 「それより俺が帰るまでのロンダーさん、よろしくね? 楽屋はみっちー頼みだからさ」 こんな場面でのみっちー呼び。俺の気持ちを解そうとしてくれている上司の優しさがしみる。 「は、はい。すみませ……」 「わ、時間やばいよね葉子ちゃん?」 「ですね」 「タクシー居るかなぁ」 神田さんは、いつもおろしている長めの黒髪をまとめてキュッとしばった。少し下がった目尻のせいで優しげな印象だけど、顔を隠すものがなくなると、スッと上がった眉尻に凛々しさを感じる。
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