第1章 足の速さに自信ある?

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「誉めてんだから喜べよ。みっちーイコール可愛いキャラっていうのは俺らの中じゃ定着してるんだし、あきらめな」 「え~畑中(はたなか)さんまでぇ? 俺、どうせならかっこいいって言われたいっすよ」 「かっこいいとか似合わねぇよ」 「でも絶対モテるタイプだわ、こいつ」 「合コンには連れて行きたくねぇな」 「え~~~連れてってくださいよ~」 ロンダーさんの冠番組『はびこる!』は、深夜枠ながらもう5年続いている人気バラエティだ。シュールなショートコントやサブカル系のゲストトーク、たまにゆるいロケもありで、コアなファンが多い。俺も入社前から見ていたけれど、まさか自分が作る側になるとは思ってもみなかった。これが神田ディレクター1本目の番組だっていうから、あの人の才能がうかがい知れる。そう、あの時23歳の自分の少し上くらいに思っていた面接官の神田さんは、Dになって5年の32歳だったのだ。 「みっちー、お菓子食うか?甘いの好きだろ?さっき差し入れでもらったんだけど」 「え、柴崎さんマジですかーいいんですかぁ?」 「神田ちゃんには、ナイショね」 さすがに最初は緊張にふるえていたけれど、今では台本を届けに行った先で、こんなふうに演者と軽い会話を交わせるようにもなった。ニックネームも「みっちー」で定着した。俺のテレビ人生は順風満帆に過ぎていくかに思えた。のだが。 箱にぎっしり詰まった、個装された焼き菓子に手を伸ばした時、コンコン、と軽いノックの音。
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