断捨離出来ない私たち

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 くたくたの毛布、可愛いキルトのはぎれ、予備のボタン、バラの雫、かぼちゃの種、形の良い貝殻、綺麗に丸くなった石ころ。この狭い部屋に物が多すぎる。捨てたいけど取捨選択がめんどくさい。いつでも捨てられるけど、いつでもいいやと思うとなかなか行動に移せない。  本当に必要なものなんて案外ほんの少ししかないというのに。  そして、今一番捨てたいものがこれだ。 「ただいまー。きぃちゃん♪」  寝ている私を後ろから抱きしめるのもお酒臭いのもいつものことだ。 「眠いし、汚い手で触んないで」 「俺の手できぃちゃんを汚せるとか、最高かよ」  腰に回した手が胸をまさぐりはじめる。 「やめっ……んっ」  男性特有の骨ばった手が私のTシャツをまくり上げ、手のひらで揉みこむように胸の頂を刺激する。 「んっちゅっちゅっ」  首筋から耳たぶへと食べるように軽いキスを繰り返す。私の好みを熟知している男が憎たらしい。 「……んっ……んふっ」 「したくなってきたっしょ」  得意げな声がむかつく。アンタの思うようになんてならないんだから。  そう思う心とは裏腹に、トロっとした液体が体の中からあふれるのを止められない。  相変わらず、胸と耳への愛撫は続けたまま、男は自身の片手で器用にズボンを脱いで放り投げた。  あーあ、皴になるのに。 「ああ~ほんときぃちゃんの匂い、安心する……」  足を腰に絡ませ、首筋に顔を埋めて大きく深呼吸するのでくすぐったい。すっかり硬くなったモノが布越しのお尻にあたって熱をもってる。胸も耳も首ももういいから、正直アソコを触ってほしい。 「……はぁ……はぁ」  腰をくねらせても、両手は変わらず胸を包んでる。 「ねぇ……もぅ……」  と言いかけた私の耳にすぅすぅと健やかな寝息が聞こえる。  マジか!  ここまでやっといて寝るとか、なんなんだろう。勘弁してほしい。からみついた足をゆっくりと外し、火照った体を冷ますようにシャワーを浴びる。  出逢いからひどかった。一夜限りのつもりだったのにもう三年もずるずるとここに通い続ける男。  白状した浮気は三回。匂わせは数えきれない。  シャワーを浴びた後、目に入った洗面台には一人分の歯ブラシ。  彼はこの部屋に自分の物を置いていかない。まるでいつでも消えていなくなる準備ができてるみたいに。  この部屋のものと同じように、捨てない限りずっとあると思っていたけれど、いつでも捨てられるのは私のほうかもしれない。
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