4.Body and Soul ②

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4.Body and Soul ②

「俺も飯島さんと一緒にスポーツジム行こうかな。」 シャワーを一緒に浴びながら、松木はふと思いついたように口にした。 「何で?」 「だって、太ったとか言われるし。」 「前よりはって意味だよ。デブだなんて誰も言ってない。」 「……飯島さん、もう少し言葉に気をつけたほうがいいよ。口は災いの元って言われたことない?」 「ない。できるだけ人と話さないようにしてるからな。」 飯島はくるりと松木に背を向けた。 自分の言葉を意図せぬ方向に解釈する松木が腹立たしい。 この馬鹿、なんで言葉が通じないんだ、と苛立ちを募らせる。 自分の表現の仕方が悪いとはつゆほども思っていない。 もともと飯島はふくよかな人間が嫌いではない。 メタボは困るが、松木が少々太るのはむしろ好ましいと思っている。 松木はスポーツマンの割には、細身のほうだ。 華奢な女が並べばさまになるのだろうが、同じ男を抱きとめるには、少し線が細い。 好みだけで言えば、本来飯島は柔道選手やラガーマンのようながっちりした男がタイプなのだ。 厚い胸板に縋りつきながら、乱暴に突き上げられてみたい、などと願望を抱いていたこともある。 もちろん、あくまでもただの妄想、想像上の憧れだ。 今は、目の前の男が愛しい。 痩せていようが太ろうが関係ない。 松木の気持ちが変わらず、こうして傍にいてくれるなら、飯島はそれだけで幸せなのだ。 だから、スポーツジムになんて通う必要はない。  だいたい、本当に運動をしたい人間は、スポーツジムになど通わないものだ。 ジムに来るのは、自分の体型にコンプレックスをもっている人間か、 もしくはその逆で自分の肉体をひけらかしたいナルシストに決まっているのだ、と偏見承知で飯島は思っている。 飯島自身、自分の貧弱な体型が嫌で、必死でジムに通い、筋トレを続けたのだ。 だが、週に3回も通えば、やがて顔なじみの人間もできる。 せっかく金を払い、会社が法人会員になっているのとは別のジムにわざわざ足を運び、煩わしい人間関係を避けているというのに。 厄介なのは、『ナイスバディ』な女だ。 へそだしルックに太腿をあらわにした格好で、親しげに声をかけてくるのが、飯島にはこの上なく鬱陶しい。 自分みたいな陰気臭く冴えない人間にさえ、そうやってモーションをかけてくるのだ。 ましてや笑顔の爽やかなスポーツマンタイプの松木がジムになど通おうものなら、どんな猛攻を仕掛けてくるか知れたものじゃない。 そんな飯島の不安や嫉妬を知る由もなく、松木はシャワーの湯が流れ落ちる飯島の二の腕や僧帽筋を指で辿る。 ぞくぞくと背筋に快感が走り、膝が震えだす。 松木は背後から腕を回し、飯島の腹筋を撫で上げた。 「ホント、綺麗な身体してるよね。これでどれだけの男を虜にしてきたの?」 「馬鹿、何言って…」 こらえきれず、飯島は振り返りながら松木の後頭部を抱き寄せる。 「欲しいの?飯島さん、さっきあれだけやったのにまだ足りない?」 耳元に息を吹きかけながら、揶揄うように松木が問いかけてくる。 低く掠れた声が官能をかき乱し、もはや何も考えられない。 飯島は答える代わりに、そのまま唇で松木の口を塞いだ。 既に互いのペニスは硬く勃ちあがっている。 欲望が際限なく湧き、溢れ出す。 「壁に手をついて。」 松木は飯島の耳朶を甘噛みし、その中に熱い吐息を吹き込みながら、既に何度も松木を受け入れ柔らかく蕩けた飯島の後ろにゆっくりと自身の欲望を埋めた。  すっかり脱力した飯島の身体を、松木はベッドに運んで横たえた。 「大丈夫?」 松木が労わるように覗き込み、グラスに入った水を手渡される。 「……ああ。」 飯島は水を流し込み、ようやく一息ついた。 よくよく考えれば自分はアラサーだ、もう若くないのだ、体力もピークを過ぎている。 飯島は空になったグラスを松木に返した。 「やっぱお前ジム必要ないよ。俺よりずっと体力あるし。」 受け入れる飯島のほうが、負担が大きいとは言え、あれほど何度も身体を繋げながら、松木はさほど消耗していない。 「そうかな。俺は前にも増して行かなきゃって気になってますよ。ジャグジーとかあるんでしょ、 一緒になった人たちにあんな色っぽい顔、誰彼かまわず見せてるんじゃないかって心配です。」 「馬鹿…。人のこと色情狂みたいに言うな。」 誰彼かまわず欲情するわけないじゃないか、と飯島は思う。 相手が松木だからこそ、すべてをさらけ出しているのだ。 「いいか、絶対にジムになんかついてくるなよ。」 飯島は松木に釘をさす。 周囲の視線と嫉妬を秤にかけながら普通に接するなんて器用な真似、とてもじゃないができない。 自分は本当にこの男が好きなのだ、歯止めが利かなくなるのではないかと怖くなるほどに。 「なーんか怪しいな、そんな隠さなくたって。 あーあ、結局いつも一緒にいたいって思うのは俺ばっかりか。 やっぱまだセフレ以上にはなれないんですかね。」 (誰が、セフレだ……) 飯島はめまいを覚えた。 セックスのし過ぎと湯あたりで、貧血を起こしたのだろうか。 「あれ、飯島さん?寝ちゃったんですか、もう…」 遠のく意識のどこかで松木の声を聞きながら、飯島は意識を手離した。
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