第四話

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 厄介な相手との恋を成就させている由宇に、俺は何一つとして反論出来ない。  テーブルにスマホを置き、本格的にお説教モードに入った由宇は最近めっきり大人っぽくなった。 雰囲気だけ。 「真琴はね、好きって気持ちを返してもらおうとは思ってないんだよ。 怜にだってそうじゃん。 恋愛感情抜きにして、好きな人には好きって言っちゃう子なんだ。 三年も一緒に居るんだから、怜も真琴の性格分かってるでしょ?」 「……俺は、……」  そこが分からないんだよ、由宇。  真琴の本性は俺達には見えていないところにあるような気がして、進んだ先に何があるのか読めないのがそこはかとなく怖いんだ。  俺は、……と口ごもったちょうどその時、てんとう虫柄のリュックを抱えた真琴が入り口に見えた。 「由宇ーっ、怜様ーっ」 「あ、真琴だ」  俺が来た時と同じように、由宇はわざわざ立ち上がって真琴に手を振った。 真琴もニコニコで手を振り返している。  由宇が小型犬なら、真琴は中型犬といったところか。  吠え始めるとうるさいものの、基本的に頭が良くて忠誠心が強いという部分ではドンピシャで、顔もなんとなく柴犬っぽい。 「由宇っ、久しぶりー! 会いたかった! 相変わらずちっちゃいねぇっ」 「一言多いよ! そんな変わんないだろっ」 「えー? 怜様、見て見て。 どっちの方が大きい?」  二人が並んで言い合っていると、まさに小型犬と中型犬の喧嘩に見えて吹き出しそうになった。  小さな口論はやかましいけれど、高校時代と変わらない二人が揃うと何とも癒やされる。 真琴のドヤ顔と由宇の膨れっ面に、俺も思わず笑顔が溢れた。  どっちの方が大きいかって、そんな小学生のような諍いを公衆の面前でするんじゃないよ。  でもまぁ……うん、背中合わせにならなくても分かる。  出会った頃、真琴と由宇の背丈はほとんど変わらなかった。 だがしかし、高校卒業までに真琴は十センチ近く背が伸びたから、目視で充分。 「そりゃ真琴でしょ」 「えへっ、怜様大好きっ」 「むぅー! 分かりきった事を……!」  ごめんね、由宇。 俺は見たまま、問いに答えただけだよ。  ムッと唇をへの字に歪ませた由宇の隣に腰掛けた真琴は、だらしなくヘラヘラしている。  〝大好き〟過多な真琴が、なぜ俺の隣ではなく目の前の椅子に落ち着いたのか。  問いはしないが、一目惚れした俺の顔を咀嚼の合間も見ていたいからだと、きっと真琴は平然と破顔する。  ……自惚れ過ぎかな。 「……で、なに食べたいの?」  席を立ちながら、真琴に問うた。  食券の番号札を手にしている由宇は、買いそびれの心配はない。 一方、混雑する食券機を素通りして来た真琴と俺は、飢えている。 「ん〜……今日はかっぱ巻きの気分!」 「無いよ」 「じゃあそれに似たやつ!」 「ここの食堂に寿司的なものは無いからね? 期待しないでよ?」 「見くびらないでくださる!? おれはね、怜様が与えてくれるものならその辺のゴミでも嬉し……」 「分かった、分かったから」  とんでもない事を言い出した真琴に背を向け、食券機に急いだ。  重いんだよ、言葉が。 真琴の俺への愛情表現は、何年経とうが慣れない。 「かっぱ巻きなんてあるわけないよ……」  財布片手に、食券を買う列に並んで待つ事五分。  写真付きで表記されたメニューは、有名大学ともあって種類が豊富なんだろうけれど……真琴が所望したものは見当たらない。 「カツカレーでいっか。 いや野菜カレー?」  俺の後ろにも人が並んでいるのに、人差し指を食券機に構えて悩む。 無難なメニューを選ぼうとして、躊躇した。  真琴の今日の気分はかっぱ巻き、という事は、さっぱりしたものがいいのかな。 「……よし、サラダうどんだな」  あっさりさっぱりしていそうなものが、これくらいだった。 俺は朝食がコーヒーだけだったのでカツカレーにした。  真琴のくせに、昼食一つで俺をこんなに悩ませるとは。  受け渡し口で待っていると、「園田君、こんにちは」と女性に話し掛けられた気がするが、〝真琴のくせに〟が脳内を占めていて無視してしまった。 悪気はない。  その後、悩んだ末のサラダうどんが真琴の気分と合致した事を知るや、直ぐに気分を持ち直した俺は自分で自分の気が知れない。
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