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林田 真琴(はやしだ まこと)とのはじまりは、失恋した勢いだった。
玉砕したその日に、すでに友人には心に決めた人が居ると知って半ばヤケクソだったんだ。
『おれは、怜様のことが好きです!』
『俺は嫌いだよ』
『嫌いって感情は裏を返せば好きになるんですぞ!』
『それはない』
『ある! あるったらあるんだー!』
『耳元で叫ばないで! 俺の鼓膜破く気!?』
〝怜様〟──俺、園田 怜(そのだ れい)──の事が好きだとうるさい真琴は、いきなり現れてからというものずっとこんな調子で、静かにしている時が無かった。
俺が失恋したばかりだと知っているはずなのに、慰めもしないで大声で自分の気持ちを押し付けてくる。
小柄なわりに声が大きく、粗雑で、何をするにも小さな子どもみたいに手のかかる同級生。 大真面目な顔をして俺を〝怜様〟と呼ぶ、テンション高めなヘンな人。
性格的に合わない真琴の事を、俺は本当に友達以下……つまり顔見知り程度としてしか見ていなかった。
一緒に居て全然落ち着けない。
心の底から嫌いというわけではないけれど、友人の友人だった真琴と過ごす時間が増えてしまって手を焼いていた。
〝君を好きになる事はない。〟
高校を卒業し、同じ大学に進学した今に至るまで何度この台詞を吐いたか知れない。
大学だって、いくら高校が進学校だからと検事を目指している俺でもそう簡単に入れるところじゃなかった。 得意の理系は授業で伸ばし、苦手な文系を予備校で補ってようやく勝ち取った合格通知。
法学部に進んだ俺を、いつ勉強しているのかまったく分からない真琴が学部は違えどまさか追い掛けてくるとは思わず、〝怜様〟への執着はそれほどまでに強かったのかと、驚きを超えて感心すらした。
と、同時に、やや気味の悪さも覚えていた。
真琴はちょっと普通じゃない。
性格が合わないというのも多分にあるけれど、根本的に彼の何かが空恐ろしい。
もちろん、好意は嬉しい。 ただそれがあまりにも一方的なのだ。
俺の拒絶を裏返しで捉えて喜んでいる様は、どう控えめに見ても薄気味悪い。
それなのにどうして、こんな事になっているのか──。
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