第二話

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※ … … …  腕の中でモゾモゾと身動ぎされて、渋々目を開ける。  視界に入ってきたのは、一昨日染めたばかりだという茶色い髪と、その向こうには真琴の勉強机と本棚。  カラフルなスイーツ柄の悪趣味なカーテンから射し込む朝陽で、開きかけた瞼がやや震えた。 「おはよ、怜様! 今日もおれの事が大好き、愛してる、チュッチュ、なのは百も承知なんだけど、朝ごはん作りたいから離してほしい!」 「……嫌いだってば」 「怜様! おれも大好き!」 「……おはよう」  朝からそんなに大きな声を出さなくていい。 早くキッチンへ行けば?と言えないのは、俺が真琴の体を両手両脚でがんじがらめにしているから。  俺に背中を向けている華奢な体には、下着さえ身に着けられていない。 数時間前に俺がこの体を堪能して、後始末したあとに寝落ちたからだ。  昨夜は三回達した。 それでも朝には復活する、男の欲。  セミダブルのベッドでも、密着して寝ればそう狭さは感じない。 俺より一回りは小さな体をがんじがらめにしていると、余計にそう思う。 「怜様……っ、朝から大胆……っ」  自分でも引いてしまうほど硬く育った性器が、俺の意思を無視して悪戯を仕掛ける。  ちょうどいい位置にある真琴のお尻の間を割って入ろうとすると、気付いた真琴から振り返られ、期待感に満ちた瞳を向けられた。  けれど俺は、欲情を悟られまいと知らん顔をする。 「ゴム取って」 「え、もしかして今から……っ?」 「したいの? したくないの?」 「それはもちろん、したいに決まってる! えへっ」  こう言わせるように仕向けた俺は、真琴と出会ってから性格がねじ曲がった。  毎回こうして色気のない照れ笑いを浮かべながら花丸解答をする真琴を見ていると、「大好き」とうるさく言われるよりも断然落ち着く。  それが何故なのかは、俺が真琴を切り離せない現状と同等なほどに謎である。 「怜様、おれ一限ありますんで」 「俺もだよ」 「ですよね! 一時間後には出発の予定ですが!」 「うん、そうだね。 それが何? 指挿れるから力抜いてて」  話半分で、真琴の声はスルーした。  態勢は変えないまま手のひらでお尻を鷲掴む。 吸い付くような肌ともちもちの感触に、頬が緩みそうになった。 この触り心地がたまらなくて、真琴が寝静まってから一晩中撫で回していたこともある。  コンドームと一緒に渡されたローションを指先に纏わせ、そっと孔を目指した。 昨夜の名残りは微塵も無い。  どれだけ面倒でもセックスの後は真琴を風呂場に連れて行き、中を丁寧に洗って、見える部位に傷が無いかどうかをベッドで確かめて、念の為に軟膏まで塗っておいた俺のアフターケアは万全だ。  だって、傷付けたら大変だし。 真琴に苦痛を強いたらその時点で俺の負けだし。  余裕無く貫いて失敗するのは、初めての時だけでいい。  あぁ……、思い出したくない。 あれは本当に黒歴史だ。 「……怜様、……指やさしい……」 「指だけ?」 「とんでもない! 怜様はおれの知る限りすべて完璧です! 手つきとか動作とかがとにかくスマートでカッコよくて、文武両道長けていて男らしくて、何だかんだ言いながらおれのために尽くしてくれて、パーフェクトな恋人だと思ってる! 怜様大好き!」 「……誰もそこまで言えなんて言ってないよ」  少し黙ってなよ。 一を聞いたら百以上の答えが返ってくる、そういうところがうるさいんだってば。  真琴が喋る度に、内側が締まる。 一刻も早く挿入りたいという欲を押し殺して、努めて優しく解そうとしている俺の指を締め付けるなんて生意気。
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