第十二話

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 あれから一週間、ひたすら考えた。  二度目の自己嫌悪に陥るも、今回は以前ほど沈まなかった。 毎日泣いていたからだ。  当然ながら真琴からの連絡は無い。  〝友達〟の新たな恋路を祝いもせず、あんなに素っ気ない態度を取った〝昔の男〟に恐らく用は無いのだ。  俺に向けられていた熱烈な好意を、真琴は今他の誰かに注いでいる。 こちらがヘトヘトになるほどうるさくて、しつこくて、重た過ぎる愛情。  羨ましい。 その人は幸せ者だ。  それに対し、俺は結局、真琴の事を何も知らないまま。  誕生日とか血液型とかそういう事ではなくて、好きになってくれたキッカケ、何の魅力も無い俺のどこがそんなに好きだったのか、突き放してもなお友達で居ようとしてくれたその胸中。  裏切られる前提で物事を考え、あれだけ一心に想いを伝えてくれていた真琴にほんの一歩さえ踏み込む事が出来なかった。  加えて俺の根本的な性格。 ……母も心配するはずだ。 「……あ、由宇? お願いがあるんだけど──」  八月最後の土曜日。 高校時代とは違い、大学生の夏休みはあと半月残っている。  スケジュール帳の確認をした後、俺は由宇にこれが最後だからと前置きして一つ頼みごとをした。 それに由宇は、二つ返事で了承してくれた。  本当に、これが最後だ。  何もかもが不器用で堅物な俺は、うまい言葉なんて掛けられない。  ただせめて、真琴と過ごした三年間は俺にとっては有意義に違いなかったという事だけ、伝えたい。  少しも想いを返せなかった俺を振り返らなくてもいいから、いつかこの三年間を笑顔で語れるようになろう。  それだけ、それだけでいい。 伝えたい。
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