第十二話

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 か、彼氏って……彼氏って……!  今しがた温まってきたところなのに、全身に氷水をぶち撒けられたかのような衝撃を受けた。 前回の頭蓋骨貫通よりも、その被害は大きい。  だが僅かに機能していた脳の冷静な部分が「落ち着け」と指令を出す。 少なくとも今ここには、俺と、星柄のリュックを漁る真琴しか居ない。  その真琴が意気揚々と取り出したものに、俺は絶句した。 「ジャーン! これ、おれの新しい彼氏」 「……え?」 「怜様とはもうエッチ出来ないから、新しい彼氏が必要だったんだ。 おれの体、オナニーだけじゃイけなくなってるし。 部屋にあったゴム、一つはコイツで使ってました」 「…………」  な、なんだ……そういう事、か。  真琴は、手にした大人のオモチャを彼氏と言い張り、俺との行為で慣れ親しんだコンドームをそれに装着し、寂しさを埋めていた。  祝いの言葉は必要無かった。 新しく愛情を注ぐ相手など、はなから居なかった。  すべて俺の……早とちりだった。  キンキンに冷えかけた体が、徐々に熱を取り戻す。  体内の寒暖差の激しさに戸惑う俺をよそに、二つの手札を切った真琴は足を投げ出し、何かが吹っ切れたかのような笑顔まで浮かべていた。 「ほんとはね、怜様との友達活動がんばってたのも、あわよくばって気持ちがあったんだー」 「あわよくば……?」 「初めてエッチする前におれと怜様が出掛けてたところに連れてけば、もう一回そういう気持ち芽生えたりしないかなって。 タイムトラベル理論!」 「……初耳だな、その理論は」 「あははっ、だよねー。 怜様の意志堅固は並大抵じゃなかったって思い知ったよ」  俺も。 俺もだよ、真琴。 自分でも嫌になるよ。  タイムトラベル理論はちょっと分からないけれど、思い返せば確かに、友達活動で巡った場所は大概が俺達の気晴らしに出掛けていたルーティンだった。  友達活動なんて名目だけで、本当はもう一度俺を振り向かせようとした……。  そんな健気な事を聞かされたら……。 「……真琴。 先月言ってたキャンプには……行ったの?」 「え? 怜様がおれに聞きたいことってそれ? あんなびしょ濡れになってまで……」 「いいから答えて」 「……キャンプは来月だよ。 一人風邪引いちゃって、それならシーズンオフで安くなるし九月に入ってからにしようかって話に……」 「行かないで」 「……え?」 「九月は台風が多い。 それにまだまだ虫も活発だよ。 紅葉シーズンより少し早めだし、……って違う。 そうじゃない。 ……真琴、キャンプには行かないで」 「怜様……?」  あぁもう……俺ってば、シーズンなんてどうでもいいじゃん。  とにかく頭が堅くて、本来言わなければならない事を後回しにする、俺のよくないところ。  自分の発言に苦笑して、真琴との距離を縮めた。 右手を握って、左手も握って、微かに揺らぐ瞳をジッと見詰める。  たまらなく緊張した。  けれど今しかないと、〝これが最後〟だと、勇気を振り絞った。 「自分で終わらせたくせに調子のいいこと言ってごめん……でも俺、ずっと怖くて。 怖がってた事に気付けなくて……! 真琴の事たくさん傷付けてたよね。 本当にごめんね……っ」
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