第十三話(終)

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「──おれが怜様を好きになったキッカケ?」  真琴を背後から抱き寄せて問うと、ふふっと笑われた。  止む気配のない大雨を理由に、急遽泊まるよう無理強いした俺がこんなに真琴にベタベタするのは新鮮な事らしい。  照れられると、俺も照れる。 「……うん。 そういうの、俺全然知らないから」 「一目惚れだって言わなかったっけ?」 「それは聞いたよ。 でもいつ、その……一目惚れされたのかなって」  表情を凝視されると敵わないので、片手で顔を覆った。  真琴の家のセミダブルのベッドより、俺のベッドの方が狭い。 だから少しの隙間もできないように密着するのは致し方の無い事で、顔を隠しつつも身体を離さないというのは一応、理に適っている。 「入学式の日だよ。 うちの高校って校門の前に桜並木あるじゃん? その下を怜様が一人で歩いてた。 桜の花びらがヒラヒラ〜って落ちてる中を、麗しい怜様が澄ました顔でね」 「そ、そうなんだ」 「写真におさめたんだよ、それがあんまりにも美し過ぎて!」 「えぇっ、それ今もあるの?」 「もちろん! スマホに入ってるけど、怜様には見せない」 「なんで!」 「だって怜様、ヤキモチ妬いちゃうもーん。 今の怜様なら言いそうだよ。 〝過去より現在の俺を見てなよ〟とか……♡」 「……言い得て妙だね」 「やっぱり!」  俺の精一杯の照れ隠しが空振りに終わり、察した真琴が嬉しそうにクスクス笑う。  斜め向かいの部屋では母が寝ているので、内緒話をするようにヒソヒソ声で語らい、真琴の体を抱く。 それだけで、友達活動中に何度も見惚れた笑顔を真琴は惜しみ無く浮かべていた。  ストレートに愛情表現をしただけで。  散々身勝手だった俺が、真琴のそばに居たいと願っただけで。 「ねぇ真琴、……本当に俺でいいの?」 「まだ言いますかっ」 「だって俺、真琴のこと……傷だらけにした」 「エッチの後の〝友達だよ〟発言でかすり傷は負ったけど、あとは別にー?」  うっ……そうだよね。 ごめんね。 そのかすり傷こそ、俺の最大の失態だ。  あの言葉の裏はさすがに読めなかった真琴に、一切の罪は無い。 詫びても詫びても足りないから、強く抱き締める事で許しを乞う。  真琴はそんな情けない俺の腕にしがみついて、終始明るく振る舞った。 「もう治ったけどね!」 「……そんな……」 「怜様に大好きって言えないのが一番ツラかったんだよ! これから毎日遠慮なく言えるなんて、こんなに幸せな事ない!」  真琴の言葉に、目頭が熱くなる。  この期に及んでも尚、真琴は未だ俺からの見返りを求めない。 押し付けるだけ押し付けてニコッと微笑み、きっと彼はこの先も俺に盲目で居続けるのだ。  三年間貰いっぱなしだった想いは、一生分と言わず受け取っている。  返していかなきゃ。  一生をかけて、返していかなきゃ。 「ありがとう、真琴……。 好きだよ、大好きだよ」 「怜、様……っ」 「これからは意図的に大事にするからね。 毎日〝大好き〟って言ってね。 ……俺のこと、ずっと大好きでいてね」 「当たり前でしょー! 怜様への愛をみくびらないでいただきたい! おれは怜様の三大性質知ってるからね!」 「ふふ……っ、何それ?」 「怜様は不器用、堅物、不調法だってこと!」 「ネガティブ要素しかないけど……」 「おれは、そんな怜様が大好き! 大好きなんだよ! 理屈っぽいところが特にね!」  果たして本当に、それが好意に繋がるのだろうか。  俺の短所をかき集め、それを大事に抱き抱えて〝大好き〟と言う真琴の気が知れない。 「……真琴はやっぱり、変わってるね」  こんな俺を好きになった事も、従順に真っ直ぐ想いを伝えてくれる事も。  ただし、変人扱いも彼にとっては褒め言葉なので、俺の呟きに「でしょ!」とドヤ顔を見せた真琴のレスポンスは至極真っ当なのである。 終
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