もう逢わない、もう逢えない。

11/11
58人が本棚に入れています
本棚に追加
/124ページ
 愛おしい、この人のことが。どうしようもなく。絆されてしまった。  同性でも、出会って日が浅くても、どんな出会いでも、性的観念が緩くても、その全てを許容できてしまうほどに、今この人を愛おしいと私は思ってしまった。 「正さん?」  私は抱きしめても尚ある隙間を埋めるように、力一杯夜々塚さんを抱きしめ、頰を撫でて口付けた。そしてゆっくりと唇を離し、口を開く。 「近々、何処かに出掛けましょう」 「えっ、行きたい」 「私の事、貴方のこと、お互いを知る期間はそれで終わりにします」 「…………え」 「終わりにして、新しく始めたい」 「……あ、うそ」 「だから、考えておいてください。どこに行きたいか。私も考えます」 「うん、うん!」  落ち着かない夜々塚さんの額にキスを落とし、抱き締める腕を緩め目を閉じる。なんだかスッキリした。心の靄がなくなったようだ。明日の会議もきっと心配ない。思考はゆっくりと二人分の体温に引きずられるように落ちていく。 「……おやすみなさい」  意識が途切れる寸前、甘い声が鼓膜に届いた。
/124ページ

最初のコメントを投稿しよう!