もう逢わない、もう逢えない。

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「俺、服のままだよ?風呂も入ってない」 「そんなの気にしない。明日入ればいいでしょう、ここで」 「ギュってしておいて、そのまま寝るの?」 「セックスなしでは一緒に寝る意味なんてないと思いますか」 「ううん、思わない」 「なら黙って抱かれていなさい」 「……俺、幸せだなぁ」 「まだ付き合ってもないですよ」 「まだ付き合ってないのに、好きな人にギュってしてもらえて、嬉しい」 「……そうですか」 「正さん、大好きだよ」  ────この人は、私とこうしているだけで、幸せなのか。    たった一人で生きていこうと思うくらい、つまらない人間だと後ろ指さされて生きてきた。恵まれた容姿があっても、仕事ができても、人の心になかなか共感もできない。そのまま年齢を重ね、親を安心させるためだけに見合いをし、その度に何か大切なものを失っていた私を、この人は。  当たり前のように、私のことを、好きだと。 「……ありがとう、ございます」
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