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そこにいたのはひとりの青年だった。頭にとんでもない美がつく程の。その凄いイケメンが申し訳なさそうに柳眉を下げた。
「驚かせてしまって申し訳ありません。×××さんでしょうか?」
「は、はい…」
「ああ、よかった。お探ししていたのです」
「えっ、私を?」
「はい。本日13時より面接を予定されておりますでしょう」
「あ、ああ! はい、してますしてます」
「場所が少々分かりにくい所にございまして、道に迷っては大変だと僭越ながらわたしが迎えに参りました」
にこ、と微笑まれる。
なんと迎えに来てくれたのか。こんなイケメンが私に用があるなど絶対詐欺だと思ってしまったのが申し訳ない。
最初は感激しながら青年の行く後におとなしく続いていたのだが、
「…(う、う~ん?)…」
すぐに私は雲行きが怪しくなっていくのを感じた。
正面からではなく住宅街から入っていったから気付くのが遅れたが、ここは神社の境内だ。
そして、私の勘違いではなければ、ここは前に私がヒトではなかった女に絡まれていた所だ。
…これ、まずいんじゃないか?
すっかり気を許していたが、まずこの青年、人間だよな…?
「あ、あのー…」
「いかがされました?」
堪らず声をあげた私に、青年が振り返って首を傾げる。表情も佇まいにもおかしな所はない。厭な感じもしない。
しかし青年が立っているのは、あの夜、私の手首をこれでもかと握り締めてきた女が行きたいと固執していた所だ。ぽつんとひとつ、鳥居が立っている。
「×××さん…? いかがされました?」
立ち止まったまま動かない私を青年が不思議そうにけれど案じるように伺ってくる。
唐突だが、どちらを選ぶかでその後の人生が左右される選択肢というものがあると思う。右を選ぶか左を選ぶか。
まず間違いなく、この時が私にとって人生を左右する選択だった。
「今行きます」
踏み出した私の脚の下で、玉砂利が音を立てて転がった。
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