春との再会

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 「プリマヴェーラ」からバッグが届いたのは二週間後のことだった。受注生産で時間がかかることは承知していた。  段ボール箱を開けると、懐かしい薄紫色の薄紙に囲まれて、中にもう一つ焦げ茶色の箱が入っていた。  そうっと箱を開ける。新しい革の匂い。生成色の布袋から、慎重にハンドバッグを取り出した。  プリマヴェーラ──イタリア語で「春」を意味する店から届いたハンドバッグ。  およそ十年ぶりの再会だった。  滑らかな表面をそっと撫でる。  「たくさん使ってちょうだいね」と、春子さんの声が聞こえたような気がした。 〈了〉
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