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手品師のおじいちゃんの部屋には沢山不思議な物がある。本物に見える剣の模型、何も入っていない真鍮の鳥籠、見たことない色の蝶のモビール。これ全部手品の道具なんだって。
丁度逆さ吊りにされた薔薇の花に手を伸ばした時、それまで薄暗かった部屋が突然明るくなる。
「オリバー坊や、また私の部屋に居たのか」
現れたのはぼくのおじいちゃん。ロイおじいちゃんだ。
「5歳の坊やはそろそろ寝る時間じゃないか?ママが探しにくるよ」
「いやだよ、ぼくまだ眠くないんだ……。おじいちゃん、いつも見たいに手品見せてよ!」
他のおねだりをしてもダメだけど、こういうとおじいちゃんはぼくに甘い。
「仕方ないな……そうだな、これはまだ練習中なんだが……」
おじいちゃんはぼくの背中に手を添えて、蝶々のモビールの下に誘導する。
「良いかい、よく見ておくんだよ」
そう言っておじいちゃんは指をパチンとぼくの目の前で鳴らす。驚いてちょっと瞬きをしちゃった。目を開くと、おじいちゃんの指に留まっているのは本物の生きた蝶だった。モビールの蝶は1匹居なくなっていた。大きな蝶は2、3度美しい紫の羽根を優雅に上下に動かす。
「すごい!すごいよ、どうやったの?」
おじいちゃんはそれには答えず笑いながら優しく蝶を窓の外へ逃してやった。
おじいちゃんはいつもこう。手品の仕掛けを教えてくれない。実は本当の魔法なんじゃないかなって思う。
少しむくれて、いつもと質問を変えてみる。
「おじいちゃんはどうして手品をするようになったの?」
「手品をするように……か」
そう言ってさっき蝶々が飛んで行った窓に目をやる。
「手品師じゃなくて本当は魔法使いなんじゃないの?」
「まさかまさか!タネも仕掛けもちゃんとあるよ。そう思ってくれたら嬉しいけどね」
そのタネも仕掛けも教えてくれないんだから、ますます魔法使いなんじゃないかって思う。
「ねーえ、教えてよ。どうして手品を始めたの?」
おじいちゃんは優しい目をもっと優しくしてベッドに座った。
「そうだなぁ、じゃあ少しお話ししようか」
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