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何日も待った。
当選メールがくるのを、何日も何日も、待った。
待っている間に、冷静になってくる自分がいる。
(当選メールの、当選てなんだろう…)
無作為に選ばれるとしたら、誰が何のために?
一度疑問が湧くと、次々に出てくる。
いったい何の会社の広告だったんだろう。
当選して、どうやって話が出来るんだろう。
今はもう現世にいない人なのに。
思考が突如ピタッと止まった。
「私…騙されて個人情報取られただけ、なの?」
自分なんかの情報とったって何の得にもならないのに、と思うのに恐怖がジワジワとにじり寄ってくるのがわかる。
嫌な汗が全身から吹き出て、心臓が耳の奥でドクドク音を立てた。
携帯電話を持っている手がブルブルと震える。
(お母さん…怖い…。私バカなことしちゃった……)
体育座りした膝の上に両腕を組んで、頭を乗せると床を見つめる。
視界が歪む。
冷たいフローリングに、透明の水滴が落ちていく。
小さな粒たちは、きゅっと集まるとプルンと揺れながら大きな水玉になり、領域を広げてゆく。
「お母さん…」
口のなかで呟くと携帯電話が、メールの到着を知らせた。
「………まさか…?」
震える手で、未読のメールのタイトルを見れるよう操作した。
『おめでとうございます。あなたは当選しました』
ひと昔まえに似たようなタイトルの詐欺メールが出回っていた。
落胆の気持ちが彼女を包む。
(私…ほんの少しだけど期待してたんだ…)
落ち込む自分に、驚きながら今度は自嘲した。
(あるわけないじゃん! この世にいない人と、話せるなんて! 霊能者じゃあるまいし!)
「ばっかみたい!」
泣きながら嗤う。
ぐちゃぐちゃになった感情をもて余して、携帯電話を床に叩きつけた。
案の定、電話の画面にヒビが入る。
明るかった画面は電源を落とした。
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