【2・あと一週間】

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「すみません、お待たせしました。こちらでいかがですか」  そう言って、安藤さんが示したのは、綺麗にラッピングされたジュエリーボックスと、それに巻くのにちょうどよい長さに切り取られたリボンが、一本。  ん? どういうことだ?  今間違いなく怪訝な顔をしている俺に向かって、安藤さんはちらっと笑った。 「わたし、前に篠み……違った、そのお客様から聞いたことがあるんですけど。同期の方のラッピングの、特にリボン結びの技術がすごくて、ずっと見ていたくなる……って。 なので、よかったらこれ、ご自身で結んであげてください。これもサプライズの一つってことで」  彼女、多分気付きますよ、と安藤さんは続けた。 「……リボン結びなんて、あいつだって普通にできるのに」  確かに、篠宮は手先がそこまで器用ではないなと思う。だからこそ、休憩時間にこっそり隠れてキャラメル包みやリボンかけのやり方を特訓していたのも知っているし、篠宮がプレゼント包装をするときは、お客様を待ち時間に退屈させないようにトークで笑わせながら、いつも一つ一つ、丁寧に仕上げていたのも知っている。  俺は、そんな篠宮の笑顔とともに出来上がっていく、とても優しさのこもったラッピングを見ると、いつも心が和んだ。そのあたたかさと思いやりの宿る指先をずっと見ていたかった。  ずっと、見ていたい。見ていたくなって。  ずっと、ずっと、これからも―― 「いや、正直いうとわたしもそこまでリボン結び完璧ってわけじゃないんで、やってもらえると助かるかな〜、なんて。いや、差し出がましすぎましたかね」  ボックスとリボンを入れたおしゃれな紙袋を、店頭で安藤さんがそっと俺に手渡した。 「……いえ、色々、ありがとうございます」 「ふふふ。いえいえ。こちらこそ。お幸せに。……あ、こっちの言葉の方が、なんかお二人にはあってるかも?」 ――ご武運を。  それじゃ、この指輪はまるで、決戦前に身の安全を祈る火打ち石みたいだ。  俺は笑って頭を下げた。  そして。  きらきら光る火打ち石を抱えた俺の手によって、5年越しの決戦の火蓋が切って落とされるまで、あと一週間。 〈end.〉
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