5人が本棚に入れています
本棚に追加
「どうした? 課題を忘れて来たのか?」
「いえ、やったのはやったんですけど、鞄に入れ忘れてて……」
「嘘はよくないな? 嘘は」
見飽きたほどの光景が教室に繰り広げられる。
課題を忘れたクラスメイトの、耳にぶら下がるパネルに浮かぶ波は赤い。
あれは嘘の合図だ。
マスクで隠れてしまった表情を、読み取るためのコミュニケーションツールと言えば、聞こえは良かった。
生まれた時に一番力強く鳴った心の音を、手術でそっと閉じ込める。
耳に掛けたこのツールはそれをしっかりとキャッチして、鼓動を周囲に向かって露わにしてくれた。
嘘をつけば赤く、動揺すれば波打って、イライラすればギザギザに。
例を挙げればキリがないけれど、私たちは確実にその形で相手の気持ちを読み取っている。
成長段階である子どもなんかは露わになったって、そもそも感情がむき出しだから関係ないかもしれない。
だけど、もうすぐ大人になる、子どもと大人の境目にいる私たちには、それがひどく窮屈だった。
だって、好きな人の前で惜しげもなく跳ねるそれは、とても悲しいから。
私はまだ、それを制御する術を知らない。
もちろん、怒っているはずの先生のパネルに映る波形が一定になるまでに、何があったかなんてことも。
クラスメイトは、もちろんこのパネルのせいで先生にずいぶんと絞られた。
最初のコメントを投稿しよう!