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テストが無事に終わると、クラス中が夏休み前の独特な雰囲気に様変わりする。
夏休みのせいで好きな人に会えなくなる子は、遊びの約束を入れるために呼び出すことも多い。
周囲にはもちろんバレバレだ。
あそこはすでに付き合っているだの、片思いだのそんな噂が絶えない。
「お前らは当然、一緒に過ごすんだろ?」
夏休みに限らず、一定の間隔で私たちが揶揄われるのはいつものことだった。
だって、シンちゃんの形はとてもわかりやすい。
隣の席で一人スマホをいじっていたシンちゃんは、振られた話題に「またか」という目で答えた。
「お前ら付き合ってんだろ?」
「そんなこと……」
シンちゃんが相手にしない以上、私が答えるしかない。否定する声は、できるだけ小さく答えた。
事実が少しでも悲しくないように。
「無理すんなって、バレバレだぞ?」
何も言わないシンちゃんを横目に、私の波が揺れてないといいなと願うばかりだ。
私たちは付き合っていない。
だけど、シンちゃんの波はハッキリと私のことを求めている。
私の波も、自分には見えないけれどきっとシンちゃんを求めている。
わかりきっている状況なのに、シンちゃんは私に最後を問わない。
その日の帰り道、少し遅れてやってきたシンちゃんはいつになく口数が少なかった。
「シンちゃん、何か怒ってるの?」
「いいや? ちょっと考え事」
怒ってるかどうかなんて耳元を見れば一目瞭然なのに、ついシンちゃんの言葉で聞きたくなって聞いてしまう。
線だけの感情なんて寂しすぎるから。
それでも、たった一本のその線が揺れている事実は、私に自信をくれた。
「んっと……夏休みの計画、とか?」
「そうだねえ。レンちゃんどっか行きたい?」
「……特に、ないけど」
「そっか。レンちゃん、具合悪いんだから早く帰らなきゃだね」
行きたいところがないと答えても、シンちゃんがどこかに誘ってくれると信じていたのに。
伸ばしかけた手を伸ばす勇気もない私の言葉は、特にそれ以上続かなかった。
たったそれっきりの、私たちの関係に名前はない。
友達と言えばそうだけど、明らかにそれ以上の感情があるのは明白だ。
なのに、それ以上に進まないシンちゃんの真意はわからない。線は明らかに揺れていても、何を考えているかなんてわかるわけがなかった。
何の約束もしないまま、私は一人で夜を抱えて眠った。
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