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シンちゃんとの関係が何も変わらないまま夏休みに入ると、何事もない日常がただあるだけだった。
「ぐうたらしすぎないの」と、母親に注意されて面倒くさがりながらも課題を終える。
どこか旅行にでも行けたらいいのに、閉じ込められた東京からは逃げられない。
『シンちゃん、どこにも行かないの?』
我慢しきれずにメッセージを送った。
『どこかに行きたいの?』
肯定のメッセージではなかったことに、ため息をつく。
連れないシンちゃんにも、求めてばかりの自分にも腹が立つ。
怒りのせいか蒸気した頭は、いつになく強引なメッセージを打った。
『今から、シンちゃんの家に行っていい?』
小さい時から一緒だったお陰で、家族とも仲良しだ。私が突然お邪魔したって何も言われないだろう。
『なんで?』
『夏休みの計画、立てようよ』
『無理しなくても、いいんだけど』
『無理してないから、行くね!』
既読が付く前に家を飛び出した。
日差しの中、マスクで走るのはきつい。
さっきよりも頭に熱が昇っていくのがわかる。
布越しに、取り込める空気を精いっぱい取り込んだ。
シンちゃんに会いにいくために。
ジリジリと熱を孕んだアスファルトは、いつもより私に痛みを与えた気がした。
「本当に来たんだ」
ドアを開けながら、目を丸くしたシンちゃんの波は相変わらず跳ねている。
私はその形に安心した。
口元を見せないようにそっと汗を拭う。
開けた扉の向こうが明るすぎたのか、シンちゃんはいつものように目を細めた。
そのまま、シンちゃんの部屋に通されると、シンちゃんは不思議そうな顔をした。
「全然乗り気じゃなかったのに、レンちゃんから来るなんて、突然どうしたの?」
「別に乗り気じゃなかったわけじゃないし」
「そう? 特にないっていってたじゃん?」
「あれは別に本気じゃないっていうか……」
その言葉を受けて、ずるいあの瞳で私をじっと見つめる。その瞳にはかなわない。
きゅっと心臓が締め付けられる。
鼓動がうるさくてたまらない。
耳にぶら下がるパネルに浮かんだ、私の形も見えているはずだ。
……それでも、シンちゃんが何も言わないのはどうしてだろう。
たぶん煮え切らないシンちゃんに我慢しきれなかった。
だから、ずっと言わないでいた言葉を、ついに放ってしまった。
「シンちゃんは、私のことが好きじゃないの?」
全部夏の暑さのせいだ。
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