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出てしまった言葉に、思わず目を背ける。
通されたシンちゃんの部屋で二人きり。阻むものはなにもない。
ここでシンちゃんがその言葉さえ言ってくれれば、私たちは堂々と恋人になれる。
心臓の音が黙ってくれない。
きっと、たった少しの間なのに、永遠にも感じられる。
耐えられなくなって、恐る恐る見上げたその吸い込まれそうな瞳は、眩しくもないのに細められていた。
眉頭を歪ませて、マスクでどうせ見えない口元を腕一杯で隠している。
「シンちゃん……?」
腕を降ろして、私を見ないシンちゃんの波は相変わらず揺らぐ。
「レンちゃんは、さ。俺のことどう思ってるの?」
ぼそりと、消え入る声で言うシンちゃんの声は知らない人のようだ。
「そ、それはもちろん……」
「もちろん?」
私の方から言わせようとするなんて、シンちゃんはずるい。
やっぱりそれはシンちゃんから言ってほしい。
暫く私が黙っていると、シンちゃんが口を開いた。
「あの日さ、レンちゃんと帰る前にちょっと待たせたの覚えてる?」
「あの日?」
「そう、ちょっと考え事してた日」
シンちゃんがいつになく口数が少なくて、変な気持ちになった日だ。
帰る前に、用事があるから待っててなんて言ってたっけ。
「あの日、実は呼び出されてたんだよね。隣のクラスの子に」
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