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「そんなの私、知らない」
「うん、レンちゃんには言ってなかったから」
目を細めて悲しそうに笑う顔は、今にも泣きそうだ。
鼓動が早まって、私もつられて泣きそうになる。
「なんの、呼び出し?」
「告白……されたんだよね」
あんなに熱かったのに、背筋がとたんに凍りつく。
「え……それで、シンちゃんはなんて?」
相変わらずの表情で、首を横に振ってくれた。
ひとまずほっと胸を撫でおろす。
「な、なんで振ったの?」
自分でも性格が悪いなんて思いながら、滑り出た言葉は戻せない。
「レンちゃんが好きだからだよ」
同じようにするりと飛び出る待っていた言葉。
悲し気に笑う彼の表情から、数秒遅れて自分の顔が熱くなるのを感じる。
「じゃ、じゃあ――」
「でもね」
前のめりの私の気持ちは、シンちゃんに掻き消された。
「レンちゃんは俺を好きじゃないんだ」
「え? 私だってシンちゃんのこと――」
彼はいったいなにを言っているのだろう。
どう見ても、どう考えても私はシンちゃんのことが――。
彼の細めた目に、ひどく悲しげな雫が見えた。
「ねえ、じゃあどうしてレンちゃんの形は俺といても何も変わってくれないの……?」
「え……?」
心臓はこんなに脈打ってる。
何も変わらないだなんて、そんなはずない。
耳元のそれに触れても、自分の形は見えてこない。
「心臓は、私の心臓は、すごく脈打ってるよ?」
「知ってる。すごく揺れてる。でもね。ただ、それだけ。それは恋の形じゃ、ないんだ」
恋の形、じゃない。
そんなの嘘だ。
私の形は、シンちゃんと同じ。同じはず。
部屋に立てかけてある姿見に目を向けると、激しく動くだけの波の形は、シンちゃんの柔らかな跳ねには程遠い。
凍っているのは背筋だけじゃなかったんだ。
彼といるときの自分の形を、私は初めて自覚した。
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