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一人席で浸っていると、回されてきた上司からの書類。
挟まれたメモには、丁寧な字で時間と場所が書かれている。
内緒で付き合っている私の恋人は、無表情で通り過ぎた。
そんなのスマホにメッセージでも送ってくれていればいいのに、わざわざメモを挟むなんてマメだと思う一方で、こういう雰囲気が好きなだけなんだろうと納得する。
場所から察するに今日はイタリアンだ。
もう、付き合って一年になる。彼もそれなりに良い歳だ。
変わらない波の形の彼と何があるとは言わないけれど、毎回私なりに楽しみにはしているつもりだった。
◇
「なんか今日機嫌いいの?」
運ばれてきたバジルとオリーブの香りを楽しんでいると、無表情の彼は尋ねてきた。
「そう? いつも通りだけど」
と、コツコツと耳元のそれを叩く。聞かなくても見ればわかる感情だろうに。
「今日、部屋くる?」
機嫌の良し悪しは関係なかったのか、すぐに次の話題に移る。
「うん、明日休みだし。私のシャンプーまだあったよね」
「あるよ」
「そう、良かった」
部屋への誘いだというのに、彼の耳元に見えるのは、なんのブレもない一本の線。
一年も付き合えばこんなものかもしれない、と普通なら言えるだろうけれど、付き合った時からこの形は変わらない。
そして多分私も。
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