イケメンとファンタジー

1/5
3人が本棚に入れています
本棚に追加
/5ページ

イケメンとファンタジー

「諸君、私はイケメンが好きだ。イケメンが好きだ。イケメンが好きだ。大事なことなので三回言いました」 「ア、ハイ」 「特に完成されたイケメンが好きだ。萌える。オカズにできる。同人誌を作れと言われたら二百ページ越えの本を作って見せる自信がある」 「同人誌で二百ページ超えってナニ!?」  突然だが、こんな感じで始った暴走気味の会話。どうもこんにちは、中学二年生の女子の私です。教室でドン引きながら、友人である安奈(あんな)の話を聞いてます。  えっと、私は所謂語り手というものでして。  今回の主役は、今教室の真ん中で萌えを叫んでいるこの安奈さんでございます。椅子に片足をかけ、机にドンっと左手をついて、右手の拳は高々と上げてらっしゃいます。――いやだから、一体なんのポーズやねん。  今現在のイケメンに対する語りもだいぶアレなのだが。小学校からの付き合いである私は知っているのだ。こいつの言うイケメンが、斜め上にかっとんでいるということを。つまり。 「しかし、私は生きてるイケメンには興味がない。ていうか、幽霊のイケメンにも正直興味がない!」  どどん!ととんでもないことをぶっちゃける安奈サン。 「私が好きなのは、無機物のイケメン!銅像とか石像とかがラブなわけです文句あっか!」 「いや、ない、です……」  本当はいろいろツッコみたいし全力で止めたいのだが、既に彼女の場合手遅れであることを知っているのだ。  遡ること、十年前。幼稚園のバスの帰りに、お母さんに腕を引かれて通った道がこの学校の真横だったのが運の尽きだったというべきか。キラキラした目の美少女が目に止めてしまったのは、学校の正門の向こうで佇む一体の石像である。  台座の上で、薪を背負って本を読みながら歩いていく勤勉な男の姿を映しとった石像――皆様ご存知、二宮金治郎像である。それを見て、少女は目を輝かせてしまったのだ。 『か、かっこいい……!』  一体何故そうなったのだと言わざるをえない。その話を初めて聞いたのは小学生の時だった。私が、“何で現実のイケメンでも幼稚園のお友達でも先生でもなく、二宮金治郎像に一目惚れするなんてことになるの!?”と思いきり疑問を呈したところ。彼女は目をまんまるにして告げたのである。 『え?あんなにかっこいい石像なんだもの、この世の全ての女子は一度くらい恋したことあるでしょ?』 『ねーわ!!』  まあ、こんなかんじだ。  やっぱり小学生の時点で(というか幼稚園の時点で)いろいろ手遅れだったとしか思えない。  ああ、なんて勿体ないのだろう。パンツが見えそうな勢いで足を上げて椅子の上でどんどん鳴らしているはしたない女は。はっきり言って、にこにこ微笑んでいれば大層な美人なのである。サラサラの長い黒髪、ぱっちりとした大きな瞳、ついでに胸はデカくて腰はきゅっとしまっているという女性としては理想的な体型。そう、こんな美少女であるはずの安奈なのに、ただただ言動が残念だし恋愛指向は斜め上にかっとびすぎているのである。神様、一体どこでナニを間違えてこんな人間が出来上がっちゃったんでしょうか?と疑問に思わざるをえない。
/5ページ

最初のコメントを投稿しよう!