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「葉山さん……もう、平気なんで。少し重いですけど、俺が上に乗ってもいいですか」
「ああ」
身体を起こして葉山の前に膝をついて立った柴嵜の身体を受け止めた。
「あの……葉山さんは動かなくていいんで。ただ座っててくれるだけでいいんで」
そう言った柴嵜が葉山に跨り、その上からゆっくりと腰を沈めていく。
「……っ、んっ」
小さく身体を震わせながら柴嵜が葉山の腕に爪を立てた。葉山はそんな彼の手を取って重なり合うようにしっかりと握り返した。
「ちゃんと……入ってますか」
柴嵜が肩で息をしながら訊ねた。
「ああ。入ってんのはおまえのほうがよく分かるだろ。柴の中、すげぇ熱い……」
葉山が答えると、柴嵜がほっとしたように葉山の肩に頭を預けた。
「……よかった。萎えられるんじゃないかって……凄く怖かった」
「はは。安心しろよ、一ミリも萎えてない」
そう笑い掛けると、柴嵜がこれまで見たこともないくらい幸せそうな顔を見せた。こんな顔もできたんだな、と思うと同時にますます感情が揺さぶられる。
「ああ。ヤバいな、マジで……」
コツンと柴嵜の額に自分の額をぶつけると、柴嵜が「なにがですか」と訊ねた。
「おまえが想像以上にかわいくて、心の中の俺が悶え死にそうになってんだよ」
「な、なに言って……」
照れて慌てふためいている姿も、恥ずかしそうに顔を隠す仕草も、なにもかもがかわいく見える。これは、もう──ただの後輩に対する好意を越えている。
「今度は俺の番な」
そう言って繋がったまま体勢を変え、柴嵜をベッドの上に横たえた。
「動くから、痛かったら言えよ?」
少し腰を引いて浅いところを何度か擦ったあと、一気に奥まで挿入した。
「……っ、あああ」
気持ちがいいのかひくひくと身体を震わせる柴嵜に、愛おしさのようなものが湧き上がる。
「すみませ……変な声出ちゃ……」
手の甲で口元を抑える柴嵜の腕を掴んでそっと引き剥がし、そのままその手を握った。
「出せよ、声くらい。気持ちいいって感じてくれてんだろ?」
「初めての感覚で……なんでだろ? 好きな人とっていうだけでこんなにも違うのかな」
柴嵜のその言葉にじんわりと胸が熱くなる。
自分だけが特別だと言って貰えているようで嬉しいなんて口に出したら、らしくないと笑われるだろうか。柴嵜のことを知りたいと思い、彼に触れているうちに、葉山の心の中に急速にこれまでとは異なった気持ちが芽生てきているのを自覚する。
あんなに自身の気持ちを表に出すことに臆病だった柴嵜が見せる健気な姿に、気持ちが大きく揺さぶられていた。
「ン……っ、はぁっ。葉山さ……っ」
葉山の動きに合わせて、柴嵜の身体の震えが大きくなった。
「我慢しないで声出せ。どうして欲しい?」
「キス、したいですっ。……っあ。もっと激しくしてほしっ……」
柴嵜に強請られるままに唇を塞ぎ、腰の動きを速めると、柴嵜がそれに反応するように大きく身体をしならせた。
愛される幸せを与えてやりたいだなんて、随分と思い上がった考えだった。
そうじゃなかった──葉山自身が、真っ直ぐで健気な柴嵜の手を離したくないと思ったのだ。
「参ったよ……柴。少しは抵抗あるかと思ったんだけどな」
葉山が小さく呟くと、柴嵜が息を乱しながら少し不安気に葉山を見つめた。
「後悔──してますか」
「ああ、してる。柴の気持ちに気付かなかった過去を遡ってやり直したいくらいにはな。もっと早くおまえの気持ちに気付きたかったよ……」
そう言うと、柴嵜が唇を震わせていまにも泣きそうな表情を浮かべた。
「それって……」
「どうやら俺もおまえが好きみたいだ。おまえのことがかわいくて仕方ないし、他の誰にも渡したくないって、たった今思ったわ」
「葉山さん……」
柴嵜が葉山の首に腕をまわしてぎゅっと抱き付いてきた。微かに震えながら必死にしがみつく柴嵜の身体を受け止めながら、なんともいえない温かな感情が胸の中に広がっていくのを感じた。
「葉山さん。好きです……」
「ああ、知ってる」
「やっぱり、夢見てるんですかね。俺、実はもう死んでたりしないですよね」
「なに言ってんだ。生きてるよ。それに、夢でもない。ちゃんと感じてんだろ? いま、おまえの中に俺がいるの」
敢えて柴嵜の身体を深く突いてやると、彼が身体を震わせた。
「……感じてます」
「ほら、夢じゃない。いいかげん、現実受け止めろ」
「そんなこと言ったって……こんなの」
「もー、ガタガタうるさいよ、おまえ。もっと実感させてやろうか?」
葉山がのしかかるようにして柴嵜の身体に体重を掛けると、彼のもっと深いところに触れた。
「……ちょっ、ふぁ」
臆病な柴嵜は、きっとこれからも葉山の傍にいることを不安に思うことがあるだろう。そのたびに、彼はこの手を離そうとするかもしれない。だったら、自分が何度でもその手を繋ぎ直せばいい。
「柴……もっと俺を好きになれ。本気で受け止めるから」
どこまで柴嵜を受け止められるのかという漠然とした迷いのようなものが吹き飛んだようだった。いま、自分の中に確かな気持ちが芽生えている。
傍にいて守りたい。笑った顔が見たい。他の誰のところにも行かせたくない。
「俺も、おまえが好きだよ」
葉山が言うと、柴嵜が「やっぱりこんなの……」と零した声が涙声に変わり、葉山はそんな彼の髪を優しくかき混ぜた。
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