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デフォルトな『帰巣本能』
「手を繋いでくれたり、とか」
「無理」
翌日。
希望していたデートは難しそうな今の関係に、ひとまず近所を散歩する事にした。並んで歩いてはくれるものの、恋人感は一切無い隣の彼の様子を伺う。
髪、触らせてくれないかな。指を差し込んで泡立てるようにくしゃくしゃしてみたい。
茶色い毛並みの奥に見える耳が、寒いせいか赤くなっている。
したい事ってすんなり叶えてくれるわけじゃないんだな。優しくもない。むしろ見た目の愛らしさとのギャップで一層冷たい人に感じてしまう。
「こんな恋人でがっかりした?」
こちらを見もせず、ぼそっとした呟き。
「寂しいなとは思ってる」
「あっそ」
しばらく歩いてみたものの、関係も態度もなにも変わらない。
あのふたりみたいになれると思っていたのに。もしかしたら彼女達も、初めからあんな風じゃなかったのかもしれない。全て知ってくれているからって、すぐ恋人になれると思い込んでいた私が間違っていたのか…。
よし。彼と少しずつ、距離を縮めていこう。
「買いたい物があるんだけど、着いてきてくれないかな?」
「無理。先に帰ってるから鍵貸して」
大人しく鍵を渡すとなんの躊躇もなく踵を返し離れていった。
結局ひとりで、プレゼントとして思いついていたパジャマを買った帰宅途中、突然の雨に降られたのだった。
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