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『添い寝』は教わらずとも得意です
熱が出た翌朝。
体を動かそうとしたのに何かに阻まれた。
ぼんやりとした視界の中、癖毛の跳ねがぴょこんと挨拶するように揺れる。背中と腰に回る腕。絡まる足。胸元に埋まる顔。
これはつまり…抱き締められている?
「どういうこと?!」
「ん…?あと、もうちょっとだけ…」
これまでの態度と今の状況が繋がらず混乱したまますり寄られ、さらに抱き込まれた背中はしなる。
これは抱き締め返してもいい所だよね?
冷たい言葉が返ってこないように祈りながら、小さな頭を抱いた。ずっと触ってみたかった巻いた毛は想像していたより柔らかくて簡単に指が沈み、さほど絡みついてこない。ふわふわしていてあったかい。
「花…」
寝起きの掠れた声が、子犬の甘えた鳴き声みたいだ。水分をたっぷり含み見上げてくる丸い瞳に意識も距離も吸い寄せられ、そっと瞼を閉じた。
「…まだ微熱がある。寝てろ」
期待した場所に温もりが訪れなかった変わりに、額に触れてきた手。
「え、なんで」
「離してくれなかった。仕方なくだからな」
そっちの理由を聞いたわけじゃなかったけれど、起動直後のコートと同じくらいの深い皺がついた彼の服を見て驚いた。
「ごめん!でも、ありがとう!」
その服は昨日買ってきたパジャマ。大きめのサイズを買ったつもりが、手足に布地が足りていない。
すぐ着てくれたんだ。嬉しい。
誕生日も一緒だし、お揃いにしたパジャマは嫌がられる事も覚悟していたのに。
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