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 吐き出した息の白さでどれだけ寒い日だったかが分かる。  手が冷たくて、凍えるほどだった。  その手の中のカメラも氷のように冷たかった。  ファインダー越しに見る景色は曇っていた。  すべてが灰色をしていた。  心の中をそのまま映してしまったようで悲しいと思った。  さっきからずっと、人の気配を感じていた。  あからさまな視線には慣れていたが、なぜかそのとき──振り向いてしまったのだ。 「…なに?」  その人は傘を差していた。  傘にはうっすらと雪が積もっていた。  いつの間にか雪が降りだしていた。  気づかなかった。   ずっとここにいたのに。 「何を撮ってるの?」 「…え?」  なにってわけでもない。  ただ景色を。  景色を撮りたくて。  自分のために。  忘れないように。  今、このときを。 「…風邪引きそうだな」  その人はそう言って傘を差しかけてくれた。  雪に埋もれていく景色に、笑っていたのかどうかは思い出せない。
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