126人が本棚に入れています
本棚に追加
画面の中の月岡をじっと眺める。
周りの皆が口を揃えて言うように、確かに顔立ちは綺麗で、笑った顔は可愛らしかった。
きりりとした眉毛も、つぶらな瞳も、すっと通った鼻筋も。
全てにおいて完璧に均整がとれている。
しかし彼の魅力は、そんな小さな括りでは表せない、もっと奥行きのあるものだということがやっと花与にも理解できた。
それは、他の誰かを憑依させ演じている時には気づかなかった、彼の奥底から滲み出ている熱だった。
この仕事を、応援してくれている人達を、恐ろしいくらい根深く愛している。
それがあの狂気を感じるほどの演技へと繋がっているんだ。
彼の実直さと、そこから生まれる表現力に、花与は圧倒され、自分も欲しくて堪らなくなった。
でも憧憬は、恋とは違う。
「何見惚れてるんだ」
背後から低い声がして、花与は思わず立ち上がりスマートフォンをテーブルに落とした。
振り向くと、いつものように仏頂面の男が立っている。
「……遠石さん」
遠石は腕を組みながら、冷ややかな目で花与を見つめた。
「もしかして、本当に惚れたのか?」
「何言って……」
言っているうちに、自分の体温が瞬く間に上昇していることがわかった。
花与はそんな自分に戸惑い、猛烈な恥ずかしさが襲う。
遠石はため息をついた。
「……本当には惚れるなよ」
「はあ!?」
惚れろと言ったり、惚れるなと言ったり、どういうつもりなんだ。
あまりにも筋の通らない遠石の言動。
真意がわからずに、花与は苛立ちすら覚えた。
「惚れろって言ったのはそっちじゃないですか。何を今更……」
「もう手遅れってことか? アイツに心を奪われて?」
「何言って……」
ずいずいと花与に迫り、壁に追いやる遠石。
その目は鋭く花与を見据え、眼鏡越しでも妙な熱っぽさがある。
花与は不思議なくらい身体が強張っていくのを感じた。
「なんなんすか遠石さん! ちょっと近いですよ」
「……アイツに、惚れるな」
至近距離で迫られ、花与は高鳴る心臓を笑って誤魔化すことだけに専念した。
「まさか遠石さん、焼きもちですかぁー?」
“そんなわけないだろ”と一蹴して欲しかった。
そうすれば、この意味不明な胸騒ぎも落ち着くはず。
遠石は花与の頭を撫でると、耳元でそっと囁いた。
「……そう思ってもらって構わないが?」
「な…………」
ぞくっと鳥肌が立った。
心臓が忙しなく脈打ち、息をするのも辛い。
今まで感じたことのない感覚に、花与は動揺を隠せない。
「とととととと遠石さん! それってどういう……」
瞬間、遠石の目から光が消え失せ、いつもの冷めた表情に戻った。
「今の感覚忘れんな」
「は!?」
遠石は花与から離れると、面倒臭そうにしながら眼鏡をかけ直した。
「ラブシーンの時にどうしても気が乗らなかったら、今の感覚を思い出せ。以上だ」
一言そう告げて去っていく遠石。
「まさか」
……騙された。
花与は唖然としながら、真っ赤になって耳元を押さえ、しばらく立ち尽くすしかなかった。
最初のコメントを投稿しよう!