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「クランクアップです!」
両手いっぱいに花束を抱えながら、花与は共演者やスタッフを見つめた。
皆、充足感に目を輝かせ、当初の陰鬱とした雰囲気とはかけ離れた温かさがそこにはあった。
終わったんだ。
花与はしみじみと今までの撮影を振り返り、プレッシャーから解放された喜びと、今まで感じたことのない爽快な達成感に震えた。
歌う時とはまた種類の違う感動。
全員で作品を作り上げるという一体感と、お互いの心の変化により生まれる化学反応は言葉にならない快感がある。
それをもう味わうことができなくなることに、花与は少しだけ寂しさを覚えた。
「野崎ちゃ~ん! 飲み行くよ~ん!」
いつものように飲みに誘う西園寺。
「花与、あんたよく頑張った!」
泣きながら花与を抱き締める小泉。
「キスシーン最高だった! 涙枯れるまで泣いたわ! ミルキーマウンテン登頂!」
思い出し泣きし始める猫美。
「もう花与ちんに会えないなんてつまんな~い。ねえどこ住んでんの? 今度いつ暇?」
花与に纏わりついて質問攻めするシオン。
花与は彼らを一人一人じっと見つめると、深々と頭を下げた。
「……ありがとうございました」
初めは“利用しよう”なんて思っていたけど。
今では大切なことを教えてくれた大先生達だ。
「また一緒に仕事しような」
西園寺の一言に皆が頷くと、花与は我慢していた涙を溢れさせた。
そして、花与に最も影響を与えたのは。
「……おい。ちょっと話がある」
仏頂面の月岡に呼ばれ、スタジオの隅にあったパイプ椅子に二人は腰掛けた。
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