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ニューヨーク、ハーレム。
行き交う人々の足を一度でも止めようと、彼女は今日も声を響かせる。
どこまでも自由で、どこまでも孤独だ。
その両者が、花与を一回りも二回りも飛躍させていく。
吹き抜ける風のような力強い声量、閃光のような高い声。
そして、語りかけるような低音は艶やかに。
声ひとつで、あらゆる感情を思うままに操る。
「オネーサン、Amazing!」
まばらな拍手と共に、ドレッドヘアの中年男性に握手を求められる花与。
「おー! センキューベリーマッチ!」
自信満々の片言英語に、男性は噴き出した。
「Are you a famous Japanese singer?」
「ノーノーノー! アイムアイドル!」
「……What?」
「アイドル!」
「What!?」
「あ、い、ど、る!」
____「何やってんだ。早く行くぞ」
遠石に咎められ、花与は苦笑して男性に頭を下げ、微笑み合って手を振った。
雑踏の中、二人並んで歩きながら、花与は高鳴る胸を抑えられずに遠石に尋ねる。
「遠石さん! 今の歌、どうでしたか!?」
「……まずまずだな」
途端に肩を落とし歩みが遅れる花与。
遠石のシビアさは全く変わらないが、花与はめげない。
この場所で武者修行をし、必ず素晴らしいアイドルとして戻ってみせる。
もう一度、与空やダリア、様々なアイドル達と共に歌う為に。
「待ってて! 助さん角さん! 皆!」
突然奮い立ったかのように大声を上げる花与の後ろ姿を、一人の金髪の少女が見つめていた。
その目は眩しいほどに輝き、世界中にあるたくさんの光を引き受ける。
「Mom! I want to be an idol!」
またひとつ、蕾が開いた瞬間だった。
この世界の色とりどりの花達。
Wildflower.
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